2年ぶりとなるウィーンフィルの来日公演に行ってきました。残念ながら今回は予定が合わず、「ツァラトゥストラ」と「ブラームス1番」の1公演のみ。
やっぱりウィーンフィルの音は素晴らしいですね〜。ツァラトゥストラの有名な冒頭のトゥッティで、いったんディミヌエンドしてから再度クレッシェンドしてティンパニの連打に繋がっていきますが、音量が下がると金管の影から弦が響いてきてザラザラした音色となり、また音量が上がると金管の滑らかな響きに戻っていくのを聞くだけで、惚れぼれしていい気持ちになります。これは(我が家の)ステレオでCDを聴いていても絶対に聞こえてきません。
代演のトゥガン・ソヒエフが素晴らしかった
指揮は元々はフランツ・ウェルザー=メストの予定でした。オーストリア生まれで、今年のウィーンフィル・ニューイヤーコンサートも指揮しており、ウィーンの香りがする演奏を楽しみにしておりましたが、自身のがん治療のため来日できなくなりました。代演はトゥガン・ソフィエフとのこと。誰れそれ?
検索してみると、1977年生まれのロシア人とのこと。46歳と若いですが、ウィーンフィルをはじめ名だたるオケを指揮し、コンサートとオペラの両方で活躍しているとのこと。
この時期ロシア人というのはちょっと微妙ですが、出生地の北オセチアはウクライナの南東で、ジョージアに接しており、生粋のロシア人ではなく、ウクライナ人にもシンパシーを感じているかもしれません。実際ソヒエフはロシアのウクライナ侵攻を受け、氏が勤めていたボリショイ劇場とトゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の音楽監督を両方とも辞任したそうで、国際的なバランス感覚を持っているように思われます。
今回は音のバランスは悪いけど指揮者を楽しめるP席(舞台の奥のパイプオルガンの前の席)を取っていたので、ソヒエフの指揮ぶりがよく見えました。
「ツァラトゥストラ」は複雑な曲をしっかりと指揮している印象でしたが、ブラームスになって本領発揮。拍子などはあんまり振らず、ところどころで音楽のニュアンスを指示していきます。時に指揮棒を左手で握り、右手で細かいニュアンスを表現したり。顔の表情も豊か。特に第三楽章は秀逸で、第一バイオリンが旋律を弾き始めるとびっくりした表情で見つめ、そのあとグッと腰を引いて「素晴らしい」とばかりに微笑んだりします。ちょっとユーリ・シモノフの変態指揮が入っている気がします。ひょっとしてどこかで出会ってしまったのでしょうか?
「ツァラトゥストラはかく語りき」
冒頭は有名ですが、ぽん太には難解な曲という印象で、あんまり聞いてません。でもリヒャルト・シュトラウスは、新国立劇場でオペラをだいぶ聞いたので、昔よりはちょっと耳が慣れているかも。
「学問について」の、コントラバスをさらに細分して始まる複雑で抽象的なフーガや、「舞踏の歌」のウィンナー・ワルツなど、所々楽しめました。
ブラームス交響曲第1番
ソヒエフのこの曲の指揮ぶりは上に書きましたが、たいへん楽しめました。主旋律を強調せず、楽譜に書かれた全ての音符が聞こえてきて、まるで空に広がる雲の複雑な形態を眺めているかのようなような印象でした。曲の構造を強調して闇から光へとドラマチックに盛り上げる演奏とは対極だったような気がします。
アンコールはヨハン・シュトラウスを2曲
アンコールはヨハン・シュトラウスの「春の声」と「トリッチ・トラッチ・ポルカ」でした。ここでもソヒエフはあまり棒を振らずにオケに任せている感じで、ところどころで効果的に指示を出してました。楽団員も楽しそうに演奏していて、ソヒエフとウィーンフィルの信頼関係が感じられました。
ウェルザー=メストが来日しないと聞いた時はちょっとがっかりしましらが、想像をはるかに上回る素晴らしい演奏で、観客も盛大な拍手を送ってました。今後の活躍も楽しみです。
公演情報
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団2023年日本公演
2023年11月12日
サントリー・ホール
曲目
R. シュトラウス:交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』作品30
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68
アンコール
J. シュトラウスII世:ワルツ『春の声』作品410
J. シュトラウスII世:『トリッチ・トラッチ・ポルカ』作品214