新国立劇場に『トリスタンとイゾルデ』を観に行ってきました。いや〜良かったです。
ぽん太が前回このオペラを観たのは、調べてみると2007年のベルリン国立歌劇場の来日公演。この間、「前奏曲と愛の死」は動画やCDで何回かは聴いたものの、全幕は17年ぶりでした。
早寝早起き老人のぽん太、16時開演なら帰りはそんなに遅くはならないだろうと踏んでいたら、45分の休憩を2回挟んで、終演はなんと9時半ごろでした。すっかりお眠になりましたが、大変満足することができました。
しかしこのオペラ、長時間の楽劇にもかかわらず大きな出来事もなく、数人の登場人物が延々と歌う(会話する)場面が多く、なんだかぽん太は歌舞伎を、さらにストーリーもあいまって近松門左衛門の心中物を思い浮かべました。
ブランゲーネ役の藤村実穂子が出色
大野和士指揮の東京交響楽団は、例のトリスタン和音が響くピアニッシモの出だしから繊細にして艶やかで、全体としてうねるような甘美な演奏でした。日本のオケの弱点の金管も安定していて不安気なく聞けました。
演出は2010〜2011年製作の再演ですが、オーソドックスに近い演出であるため、ストーリーに集中することができました。舞台美術も気を衒わず、薄暗い舞台に浮かぶ大きな太陽(あるいは月)が美しさの中に禍々しさを感じさせました。1幕で船が向きを変えるとき、ギシギシいう音がちょっと気になりました。衣装も神話的でよかったですが、船員・手下軍団が上半身裸の武士みたいだったのは日本へのリスペクトか。太陽と、トリスタンから流れる血と、イゾルデのドレスの三つの赤が印象的なラストシーンは印象的でした。
イゾルデは、都合で出演できなくなったエヴァ=マリア・ヴェストブルックの代わりに、リエネ・キンチャが歌いました。意志を感じさせる力強い声が素晴らしかったですが、「愛の死」とかはもう少し官能的な音色を聴きたかったです。
トリスタン役のゾルターン・ニャリもトルステン・ケールの代役ながら、艶のある歌声。髭を蓄えたお顔は英雄というより渋いイケメンという感じでした。
マルケ王のヴィルヘルム・シュヴィングハマーは、見た目はマルケ王にしてはちょっと若すぎるかなと思いましたが、朗々として深みのあるバスからは、マルケ王の風格と苦しみが伝わってきました。
日本人ではブランゲーネの藤村実穂子が素晴らしかったです。今回の歌手の中で最も透明感のある歌声だったのではないでしょうか。第2幕の密会の場面で響き渡る声は、夜明け前の独特の神秘的雰囲気が感じられました。外人勢に混ざってまったく引けをとらずに全幕を歌い切りました。
公演情報
新国立劇場
2024年3月14日
公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/opera/tristan-und-isolde/
【指 揮】大野和士
【演 出】デイヴィッド・マクヴィカー
【美術・衣裳】ロバート・ジョーンズ
【照 明】ポール・コンスタブル
【振 付】アンドリュー・ジョージ
【再演演出】三浦安浩
【合唱指揮】三澤洋史
【舞台監督】須藤清香
【トリスタン】ゾルターン・ニャリ
【マルケ王】ヴィルヘルム・シュヴィングハマー
【イゾルデ】リエネ・キンチャ
【クルヴェナール】エギルス・シリンス
【メロート】秋谷直之
【ブランゲーネ】藤村実穂子
【牧童】青地英幸
【舵取り】駒田敏章
【若い船乗りの声】村上公太