ぽん太のよりみち精神科

たんたんたぬきの精神科医ぽん太のブログです。ココログの「ぽん太のみちくさ精神科」から引っ越してまいりました。以後お見知り置きをお願いいたします。

【仏像】密教的な神秘性を持つ平安前期の伝千手観音・黒田観音寺@滋賀県長浜市


 2022年10月中旬、ぽん太とにゃん子は滋賀県長浜市にある黒田観音寺を訪れ、千手観音さまを拝観してきました。

 平安初期の一木造の仏さまで、千手観音と伝わっておりますが、腕が18本であることなどから准胝観音ではないかという説もあります。目が吊り上がって少し厳しい表情にも見えますが、ライトの当て方を変えるととてもお優しいお顔になる、不思議な仏さまです。

仏さまを守ってきた地域の世話方さんが案内してくれます

 琵琶湖の北に位置する長浜市には、平安時代のものを含めたくさんの仏像が残されています。京都や奈良のように立派な寺院に祀られているのではなく、住職さんのいない小さなお寺や、お堂などに安置され、地元の人たちによって守られ、信仰を集めてきました。

 長浜市はこうした仏教文化財を保護し、多くの人々に知ってもらおうと、地域の人たちの協力を得て、独自の拝観のシステムを作っています。

 参拝を希望の人は、まず長浜観光協会北部事務所にある観音コンシェルジュに電話をし、見たい仏像の世話方さんの電話番号を教えてもらいます。そして世話方さんに電話して、拝観の日時を予約します。観音コンシェルジュの電話番号は、例えば下のリンクをご覧ください。

 「世話方さん」は、地元の住民が当番制で勤めている場合が多いようです。普段はそれぞれ仕事をしておられますから、希望の日時に拝観ができなくても怒らないようにしましょう。予約をするとその時間にお寺にやってきて、鍵を開けて電気を点けて準備をし、仏さまの説明もしてくれます。ありがたいですね。

 地元の人たちがいかにその仏さまを信仰し、愛してきたかが伝わってきます。そしてその仏さまをお堂の中に秘蔵しておくのではなく、多くの人に見てほしいと思っておられるのが嬉しいですね。

黒田観音寺は奈良時代行基が創建したというが詳細は不明

 黒田観音寺は、琵琶湖の一番北の端あたりに位置します。秀吉が激戦のすえ柴田勝家を破った賤ヶ岳の古戦場の近くですね。

 奈良時代行基が創建したと伝えられ、現在は臨済宗のお寺のようですが、詳しい歴史はネットの情報ではよくわかりません。

 お寺がある黒田の地は、秀吉の参謀として有名な「軍師官兵衛」こと黒田孝高(くろだ よしたか)の生地とも言われます。しかしその根拠となっている『江源武鑑』は一般には偽書と考えられており、史実かどうかは疑わしいようです(黒田孝高 - Wikipedia)。

密教っぽい怪しさが漂う平安前期の仏像

 あまり広くないお堂の中に大きくて立派な厨子があり、その中に安置されております。像高約2m、蓮台も加えると3mになろうかという大きな仏像で、足元は隠れてよく見えません。ライトが設置された明るい環境で、像の真ん前まで近寄って拝観することができます。

 お姿は、例えば下の動画をどうぞ。またこちらのサイト(黒田観音寺 伝千手観音立像 – 祇是未在)の写真が鮮明です。


 
 平安初期の仏さまということで、典雅な平安後期の仏像や鎌倉時代の躍動的な仏像とは異なり、密教的な怪しさが感じられます。18本の腕がそれぞれちょっとむっちりしていて、配置もなんかウネウネしてます。

 下半身の衣紋は深くくっきりと彫り込まれており、両膝の間の渦巻きになった部分など、とても美しいです。

ライティングによって怖くも優しくもなるお顔

 お顔は、切長の目がツンと吊り上がっているのが特徴で、口角をちょっと引き締めており、厳しく見下しているかのように見えます。なんかエキゾチックな印象もありますね。

 しかし世話方さんがライトをちょっと落としてくれると、あら不思議、慈しみに満ちたとてもお優しいお顔になります。

 お優しいバージョンのお顔は下の動画をご覧ください。

 以前に訪れた京田辺市の寿法寺の千手菩薩様も、たしか昼と夜でお顔が変わる仏さまとして有名だった気がします。

ホントは准胝観音という説もある

 ところでこの仏さま、千手観音として伝えられてきましたが、実は准胝観音(じゅんていかんのん)ではないかと言われているそうです。

 准胝観音と言われても、ぽん太も「なんか聞いたことある」といった程度で、記録を調べてみると、京都の大報恩寺にある定慶作・六観音のひとつで何回かお目にかかったくらいのようです。

 准胝観音とは何か?についていは、国や時代、宗派によっていろいろと解釈が違うようです(准胝観音 - Wikipedia)。インドやチベットでは、一切の仏を生み出す仏母(ぶつも)とされるそうです。日本では、天台宗では仏母とされますが、真言宗では観音菩薩がさまざまな姿をとって現れる変化身のひとつとされ、また禅宗でもよく祀られるそうです。

 准胝観音の像容(特徴的な姿)としては、日本では不空訳の『七倶胝仏母所説准提陀羅尼経』に従って、一面三目一八臂(顔がひとつ、目が三つ、腕が十八本)のものが多いようです。また正面の左右の手が説法印(【3分でわかる印相・手印とは?】|仏像リンク)を結んでいるのも特徴だそうです。

 ひるがえって千手観音の場合は、さまざまなバリエーションはあるものの、十一面四十二臂、前の二本の手が胸の前で合掌しているお姿が多いようです。

 黒田観音寺の像を見てみると、腕は十八本で、胸の前の二本の手は、説法印に見えます。左手の平に壺のようなものを持ってますが、後から載せられたものかもしれませんね。細かい指先などは修復されている可能性もあります。こうしてみると准胝観音の特徴に一致しているように見えますが、そうだとすると額の中央に縦にあるはずの第三の眼が無いのが気になります。

 いずれにしろ、素晴らしい仏さまであることには変わりありません。

基本情報

【寺名】黒田観音寺(霊応山 観音寺) 臨済宗
【住所】滋賀県長浜市木之本町黒田1811
【拝観】要電話予約(観音コンシェルジュ(長浜観光協会北部事務所内))

【拝観料】500円
【駐車場】お寺の前に車1台停められますが、道がとても細いので注意。
【仏像】◎国指定重要文化財
◎伝千手観音立像(准胝観音) 像高199cm 一木造 平安初期