ぽん太のよりみち精神科

たんたんたぬきの精神科医ぽん太のブログです。ココログの「ぽん太のみちくさ精神科」から引っ越してまいりました。以後お見知り置きをお願いいたします。

「京都・南山城の仏像」東京国立博物館

 東京国立博物館で開かれている《京都・南山城の仏像》展に行ってきました。

 ぽん太は最初「南山城」の文字を見て「な、なんざんじょう? どこ、それ」と思ったのですが、「みなみやましろ」とのこと。

 京都南部の奈良との県境のあたりを指すようで、このあたりのお寺なら、ぽん太も何度か訪れたことがあります。とはいえ記憶はだいぶ薄れていたのですが、改めて調べてみると、今回の出品作は3体を除いてすべてお目にかかっておりました。

 京都府とはいえ、自然の中にお寺が散在しており、奈良の影響も強い土地柄。京都市内の大寺院の正統派の仏像とは違う、ちょっと素朴でのんびりした雰囲気がぽん太の好みです。

 浄瑠璃寺の九体阿弥陀の修復が2018年(平成30年)から行われ、その完成記念としてこの展覧会が開かれたようです。浄瑠璃寺からは九体阿弥陀のうちの1体と、薬師如来広目天多聞天がおいでになってました。

 真横や背後を見れる仏像も多かったのが良かったです。

展覧会情報

浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展
《京都・南山城の仏像》

【会場】東京国立博物館 本館特別5室
【観覧日】2023年(令和5年)10月25日
【関連サイト】
・展覧会公式サイト:https://yamashiro-tokyo.exhn.jp
東京国立博物館サイト:https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2601
【作品リスト】・作品リスト(pdf)

出品作と感想

重文 十一面観音菩薩立像 木造 平安時代・9世紀 海住山寺

 会場に入るといきなり海住山寺の(かいじゅうせんじ)の十一面観音です。海住山寺公式サイト)は、ぽん太は2013年の秋の特別公開の時に訪れたことがあります(【仏像】二つの重文十一面観音・海住山寺(京都府木津川市): ぽん太のみちくさ精神科)。
 ここには二体の平安時代の重文・十一面観音があります。ひとつは御本尊で、像高は2m弱と大きく、素朴な印象の仏さま(画像)。もうひとつは今回出品された奥の院の御本尊で、像高50cmと小ぶりですが、精緻に彫られた優雅な仏さまです(画像)。後者は通常は奈良国立博物館に寄託されていますが、ぽん太が訪れたときには里帰りして公開されてました。小さい上に横の方に置かれていたので、気が付かずに素通りしている人も多かったです。
 平安時代とはいえ9世紀の作で、掘りも深く、エキゾチックな印象があります。頭上面も小さいのに一つひとつ表情豊かに彫られており、ひとつを除いて当初のものが残っているのがすごいです。

重文 薬師如来立像 木造 平安時代・9世紀 阿弥陀寺

 ついで阿弥陀寺薬師如来立像(2)。ぽん太は阿弥陀寺は訪れたことがありませんが、この仏さまは2018年に東国で開かれた特別展「名作誕生-つながる日本美術」(公式サイト)でお目にかかったことがあります。
 海住山寺の十一面観音と同じく平安初期・9世紀の作ですが、がっしりとしていて、硬い表情で肉髻(頭の盛り上がり)も大きく、衣紋も様式的。優美さではなく、呪術的なパワーを感じさせる仏さまです(画像)。

重文 薬師如来坐像 木造、漆箔 平安時代・9世紀 薬師寺 (初見)

 三番目は、またしても9世紀の薬師如来坐像画像)。こちらは坐像で薬師寺蔵(ちなみに奈良の薬師寺ではありません)。初めてお目にかかりましたが、像高60cm弱の小さな像なのに、とにかく重量感がすごい。前後の厚みもあります。胸もアンコ型の相撲取りみたいで、施無畏印がドスコ〜イと張り手のようです。銅像みたいに表面がすべすべに仕上げられてますが、お顔だけ鑿跡が残っていて鉈彫(なたぼり)っぽくなっているのが不思議です。

重文 十一面観音菩薩立像 木造、漆箔 平安時代、10世紀 禅定寺

 会場でひときわ大きい像高3m弱の巨大な十一面観音は、禅定寺の御本尊。時代はちょっと下って平安時代10世紀の作(画像)。
 禅定寺(公式サイト)は2018年3月に訪れたことがありますが(【仏像】若者っぽい十一面観音さまは必見。禅定寺(京都府宇治田原町): ぽん太のみちくさ精神科)、宝物館の中にたくさんの重文の仏さまが祀られていました。こちらで宝物館のなかの360度パノラマ写真を見ることができますよ。
 精悍な若者のようなお顔、直立不動でちょっと肩をそびやかしたお姿は、古風な印象を受けますが、柔らかな感じもします。

重文 文殊菩薩騎獅像 木造、彩色 平安時代・10世紀 禅定寺

 禅定寺からもう一躯、文殊菩薩騎アザラシ像です(画像)。え?アザサシじゃない、獅子だって? でも耳がないじゃん。耳が取れた跡もないし、最初から耳が無いのかしら?
 ぽん太は文殊菩薩像と聞くと、名前からの連想か、利発そうな美男子を思い浮かべるのですが、この像はお腹もぷっくらして肉付きが良く、幼児体型っぽくて、ちょっとエキゾチックです。ご本尊と同じく十世紀末の作とだそうですが、日本の文殊菩薩像の中では古いものだそうです。

重文 普賢菩薩騎象像 木造、彩色・截金 平安時代・11世紀 岩舟寺

 次の岩船寺(がんせんじ)普賢菩薩騎象像は、一転してとにかく可愛いです。細身でなで肩、華奢なお体で、ちょっと面長なお顔は女の子のようです。「図録」によると、普賢菩薩が6本の牙の白象に乗るお姿は『法華経』に書かれておりますが、法華経は女性も悟りを開けると説くため、平安時代の宮廷女性の信仰を集めたそうです。そんな関係からこのような愛らしい仏さまが作られたのかもしれませんね。
 ぽん太は2017年の「奈良西大寺展」(三井記念美術館)で初めてお目にかかり、2018年3月には岩船寺を訪れて再び拝観いたしました(【仏像】ふくよかな阿弥陀様さまにあゝ癒されます・岩船寺(京都府木津川市): ぽん太のみちくさ精神科)。ちなみに岩船寺は、御本尊の阿弥陀如来も十一面観音様もみんな可愛いく(画像)、また三重塔(重文)ではカワイイ鬼が垂木を支えているので探してみよう!(画像)。

重文 薬師如来坐像 木造、漆箔・彩色 平安時代・11世紀 浄瑠璃寺

 さて、いよいよ今回のメイン、浄瑠璃寺の仏さまたちです。
 浄瑠璃寺には平安時代の九体阿弥陀(くたいあみだ)が祀られております。中央の丈六(約220cm)の像の両側に約140cmの8体の像が並ぶ様は壮観です。2018年(平成30年)から5年をかけて九体阿弥陀の修理が行われたのですが、今回の展覧会はその完成記念だそうです。
 こんかい出品された阿弥陀如来坐像(画像)は、九体阿弥陀のうち向かって一番右の一体。平安時代12世紀のいわゆる定朝様の「ザ・仏像」というお姿。ふっくらしたお顔に眠そうな表情、ふくよかなお体に浅い彫りで表現された衣をまとう穏やかな像です。

国宝 阿弥陀如来坐像(九体阿弥陀のうち) 木造、漆箔 平安時代・12世紀 浄瑠璃寺

 薬師如来坐像画像)は、九体阿弥陀よりやや早い11世紀の作で、浄瑠璃寺の創建当時のご本尊と考えられています。ちょっと表情が厳しいですね。現在は国宝の三重塔の第一層に安置されております。

国宝 広目天立像・多聞天立像(四天王のうち) 木造、彩色・截金 平安時代・11〜12世紀 浄瑠璃寺

 九体阿弥陀の四隅を守る四天王から、広目天画像)と多聞天が出品。平安後期の作で、鎌倉時代のような躍動感はありませんが、静かに立つ姿に秘めたるパワーが感じられます。気高い表情、鎧や衣服も細かく美しく表現されております。美しい彩色や截金(きりかね:金を使って装飾)が残っており、当初のものだそうです。

 地蔵菩薩立像は期間限定公開のため今回はお目にかかれませんでした。
 ぽん太はこれらの仏さまには、2017年秋の秘仏公開のおりに拝観しております(【仏像】吉祥天女像特別公開 浄瑠璃寺(京都府木津川市): ぽん太のみちくさ精神科)。

重文 不動明王立像 木造、彩色 平安時代・12世紀 神童寺 (初見)

 浄瑠璃寺の優美な諸仏から一転して、素朴な神童寺(じんどうじ)の不動明王画像)。な、なんか……利かん坊? 弁髪がなく、まるでパーマヘア。まんまる顔で目鼻が中央に寄ってます。上半身裸で乳首もあり、ズボンを捲って両膝が出ています。
 円珍が感得して絵に描かせ、園城寺三井寺)に秘仏として伝えられる「黄不動」(黄不動 - Wikipedia(画像あり))のお姿だそうです。ぽん太は初めての拝観です。

重文 千手観音菩薩立像 木造 平安時代・12世紀 寿宝寺

 寿宝寺からは三体が出品。まずは千手観音菩薩立像(画像

 千手観音は、「真数千手」と呼ばれる実際に千に近い数の手を持つ像。また手のひらに描かれた目が残っているものもあり「千手千眼観音」でもあります。素地仕上げの美しい仏像です。ぽん太は2017年2月に寿宝寺を訪れて拝観させていただいたことがありますが(【仏像】夜になると目を閉じる!重文の千手観音立像・寿宝寺(京都府山城): ぽん太のみちくさ精神科)、堂の扉を閉じて上からライトをあてると目を閉じているように見え、地域では夜になると目を閉じる像と言われてました。

金剛夜叉明王立像・降三世明王立像 木造、彩色 平安時代・12世紀 寿宝寺

 金剛夜叉明王立像、降三世明王立像(画像)が登場。どちらも素地仕上げで、ちょっと素朴系な印象です。

牛頭天王坐像 木造、彩色 平安時代・12世紀 松尾神社 (初見)

 松尾神社牛頭天王坐像は(画像)、初めてお目にかかりました。目を見開き、平べったい鼻、口を開いて歯を見せており、ホッペと鼻の頭が赤いこともあって少年のように見えます。頭上に大きな牛の頭を乗せています。胴体や脚の造形は素朴系です。

重文 十一面観音菩薩坐像 木造、漆箔、玉眼 鎌倉時代・13世紀 現光寺

 現光寺の十一面観音坐像は、とにかく美しいです。ぽん太は2017年秋の特別公開で拝観したことがあるのですが(【仏像】これは美しい! 十一面観音坐像・現光寺(京都府木津川市): ぽん太のみちくさ精神科)、その時は飾りが両肘まで垂れ下がるような宝冠を付けていて、思わず一目惚れしそうになりました。
 鎌倉時代13世紀の作とのことで、慶派のプロポーションや空間感覚を踏まえながら、のちの時代の装飾性が感じられます。目を薄く閉じた表情も瞑想しているかのようです。また十一面観音の坐像は珍しいそうです。

重文 阿弥陀如来立像 行快作 木造、漆箔、玉眼 鎌倉時代・嘉禄3年(1227) 極楽寺

 鎌倉時代の仏さまがもうひとつ展示されておりました。極楽寺所蔵、行快作の阿弥陀如来立像です(画像)。
 ぽん太は極楽寺を訪れたことはありませんが、2017年に奈良国立博物館で開かれた『快慶展』でこの像にお目にかかっています。
 いわゆる三尺阿弥陀で、像内納入品から、快慶の有力な弟子だった行快の作であることがわかっております。少し厳しい表情で全体に力強い印象があり、快慶の装飾的な美しさとは違うところがあるようです。