2023年秋に鎌倉国宝館で行われた特別展「国府津山 宝金剛寺-密教美術の宝庫-」を見に行ってきました。
宝金剛寺(ほうこんごうじ)は小田原市という近場にありながら、仏像の拝観は2年に1度の秋の文化財公開の時しかできません。しかも博物館ということで明るいところで背後からも観ることができます。重要文化財を含む平安時代の仏像も含まれており、なかなか見応えがある展覧会でした。
仏像以外にも絵画や文書、仏具なども展示されておりますが、このブログでは仏像だけを取り上げます。
岡田信一郎設計の校倉造風の建物
鎌倉国宝館は鶴岡八幡宮の境内にあります。建物はコンクリート造りですが、畦倉造りを意識した高床式になっております。内部は寺院風になっており、仏像を展示するのではなく祀る空間にふさわしいです。
竣工は1928年。設計は岡田信一郎(1883 - 1932)で、鳩山一郎邸(現鳩山会館)や、ひとつ前の歌舞伎座で有名ですね。
宝金剛寺について
宝金剛寺(ほうこんごうじ)は829年に、弘法大師の十大弟子の一人杲隣大徳(ごうりんだいとく)によって創建された、東寺真言宗のお寺です。元は地青寺(ぢしょうじ)という名前でしたが、室町時代に宝金剛寺に改名されました。また国府津護摩堂とも呼ばれ、江戸時代には隆盛を誇ったようです。
平安時代の重文を含む諸仏
優雅な平安時代の銅造大日如来坐像
重文 大日如来坐像 銅像 鍍金 像高38.3cm 平安時代 12世紀
今回の出品作のうちピカイチの仏さまです。像高約40cmと小さめですが、お顔もお姿も非常に美しく整っていて、雅やかさが感じられます。銅像ですが印を結ぶ指の細かいところまで表現されていて、高い鋳造技術が想像されます。
智拳印を結んだ金剛界のお姿。お顔は丸顔で、整ったお優しい表情。体も自然なプロポーションで、柔らな印象です。
平安後期らしい優雅で美しい仏さまです。
特別展「国府津山 宝金剛寺」出品作品のご紹介
— 鎌倉国宝館 (@kamakura_museum) 2023年11月23日
本展のポスタービジュアルになっている大日如来坐像は、都で造立されたものが小田原にもたらされたのでしょう。銅造ながら明瞭かつ優れた造形がそのことを物語ります。
智拳印を結ぶ両手は、隠れて見えない左手の指先もきちんと作っています🥰 pic.twitter.com/XPA9AlFoZh
本尊の平安時代、木造地蔵菩薩立像
県指定 地蔵菩薩立像 木造 素地 像高49.9cm 平安時代 10世紀
宝金剛寺の秘仏御本尊で、普段は本堂須弥壇上の厨子に安置されております。像高50cmとあまり大きくありません。ずんぐりとした体型で、衣紋の流れも様式的で古風、全体的に素朴さが感じられます。衣服の表現に混乱もあり、地方仏と考えられます。ただ瞑想しているかのようなお顔は美しく、お姿全体に温かみが感じられ、本尊として祀られ、愛されて来たのが理解できます。
特別展「国府津山 宝金剛寺」出品作品のご紹介😊
— 鎌倉国宝館 (@kamakura_museum) 2023年11月11日
こちらの地蔵菩薩立像は、普段は厨子に安置されている秘仏です。
建礼門院のお産の時、平重盛が本像に安産を祈ったことで無事に皇子が生まれたという伝承から、「帯解(おびとけ)地蔵」と通称されています。
光背の上部にもなにやら小さなお像が… pic.twitter.com/WWj6sM2PA6
市指定 如意輪観音菩薩坐像 銅像 像高4.9cm 平安時代 10世紀
下のリンクの写真を見ると、なにやら形が乱れているように見えますが、像高がたったの5cmと知ると、その精巧さに驚くことでしょう。上のご本尊地蔵菩薩の光背にある龕に納められているちっちゃな像です。地蔵菩薩と如意輪観音の組み合わせに関しては、ぽん太はよく知りません。
特別展「国府津山 宝金剛寺」出品作品のご紹介
— 鎌倉国宝館 (@kamakura_museum) 2023年11月12日
地蔵菩薩の光背上部には、銅造如意輪観音菩薩坐像が安置されています。
像高4.9cmの小さな像ですが、宝冠やお顔などに平安時代前期の仏像の特徴があります。
会場では地蔵菩薩像の隣に展示されています。
よく目を凝らして見てみてください😉 pic.twitter.com/VNVc5e6dOZ
鎌倉末期の不動明王及び二童子立像
県指定 不動明王及び二童子立像 木造 彩色 玉眼 像高 不動明王77.0cm、矜羯羅童子29.0cm、制吒迦童子30.3cm 鎌倉時代 延慶2年(1309)
鎌倉後期の不動明王像と二童子像。慶派を踏まえた立体感のあるプロポーションだが、運慶の時代の躍動感は乏しく、装飾性が増してきています。両目は正面を睨み、上の歯で下唇を噛みしめるタイプの表情。
像内には経典・舎利塔・文書など28点もの納入品がぎっしりと収められていたそうで、それらも併せて展示されておりました。
特別展「国府津山 宝金剛寺」出品作品のご紹介
— 鎌倉国宝館 (@kamakura_museum) 2023年11月19日
延慶2年(1309)に造立された不動明王及び二童子立像は、迫力の不動明王、柔和な矜羯羅童子、溌剌とした制多迦童子の三名が一組のお像としてまとまりよく表現されています。
昨日見た納入品はすべて、真ん中の不動明王像の中に入っていたものです🙌 pic.twitter.com/YJuDtODnIN
金色に輝く薬師如来坐像と日光・月光菩薩
市指定 薬師如来坐像 木造 金泥塗り・漆箔 像高60.3cm 平安時代 11世紀 画像
像高60cmと坐像としてはやや大きめで、金泥を塗られて光り輝いており、存在感がある仏さまです。ちょっと変わった表情で、衣紋の彫りも深く、定朝様以前の11世紀の作とされております。両腕や玉眼は後補で、表面仕上げは関東大震災後に新補されているそうです。本堂が北条氏の薬師堂(護摩堂)だった頃のご本尊と考えられていますが、いつ頃どのようにこの寺に持ち込まれたのかは不明だそうです。
日光菩薩・月光菩薩立像 木造 金泥塗り・古色塗り 玉眼 像高 日光菩薩69.9cm、月光菩薩70.3cm 江戸時代 元禄9年(1696)
薬師如来の脇侍として江戸時代に作られたもので、古風な印象でよくできていますが、お顔がなんか仮面みたい。皮膚は金泥、衣類は古色で仕上げられています。
ペプシマンのような誕生釈迦仏
誕生釈迦仏 銅造 像高12.9cm 鎌倉時代 14世紀 画像
釈迦は生まれた直後に7歩あゆんで天と地を指差し「天上天下唯我独尊」と唱えたという伝説がありますが、その姿を表現した誕生釈迦仏です。一般的には下半身に布を巻いた姿で作られますが、この像は全裸で、しかも肉体の表現が生々しく、銅造で表面がツルッとしていることもあいまって、なんかペプシマンみたいでちょっと気持ち悪いです。
なぜかお寺に神像
稲荷明神立像 木造・素地 像高 俗形像18.6cm、天部形像13.5cm 江戸時代 安静6年(1859)
2体からなる稲荷明神立像で、俗形像は「大黒様」みたいな狩衣・袴姿の男神像です。また天部形像は狐に乗った天女の姿で、江戸時代以降は神仏習合の元で稲荷神と同一視された、茶吉尼天(だきにてん)です。稲荷明神=茶吉尼天信仰は、真言宗と関係が深いそうです。
伊勢原の大山寺から、廃仏毀釈のおりにいくつかの像が宝金剛寺に移されたそうで、これらの像もそれにあたるのだそうです。
その他の仏像
如意輪観音菩薩坐像 木造 金泥塗り・漆箔 玉眼 像高25.8cm 室町〜桃山時代 16世紀 画像
室町〜桃山時代の、装飾性があり工芸品の様に美しい如意輪観音菩薩像です。
毘沙門天立像 木造 古色塗り 像高30.4cm 室町時代 16世紀
まとまった形の室町時代の小像。
大威徳明王騎牛像 木造 古色塗り・彩色 玉眼 像高42.3cm 江戸時代 17世紀
これま大山寺から移されたものだそうです。迫力ある明王に比べ、のんびりした顔で横座りする牛がかわいいです。
理源大師坐像 木造 彩色 玉眼 像高37.7cm 江戸時代 寛保3年(1743)
理源大師とは、醍醐寺の開祖の聖宝(832〜909)のことで、東寺長者・別当や東大寺別当も務め、山林修業にも力を注いだそうです。
弘法大師坐像 木造 素地・漆箔 像高16.2cm 江戸時代 文久3年(1863)
像高16センチと小さな江戸時代の弘法大師像。
基本情報
特別展「国府津山 宝金剛寺-密教美術の宝庫-」
鎌倉国宝館
2023年10月21日〜12月3日
宝金剛寺公式サイト:https://www.hohkongohji.jp/inews0.html
出品リスト:出品リスト.jpg
画像は公式サイトにもあり、また本文中にもリンクを貼ってありますが、下の動画は見やすいし、画像が見当たらない仏像も映ってます。