ぽん太のよりみち精神科

たんたんたぬきの精神科医ぽん太のブログです。ココログの「ぽん太のみちくさ精神科」から引っ越してまいりました。以後お見知り置きをお願いいたします。

【仏像】安産祈願の参拝者が絶えない現役の仏さま・腹帯観音(滋賀県長浅井町)


 2022年10月中旬、滋賀県の仏像巡りにやってきたぽん太とにゃん子は、湖北にある大浦十一面腹帯観音堂を訪れ、腹帯観音さまを拝観してきました。

 お腹に腹帯を巻いた珍しいお姿の観音様で、妊娠・安産祈願の信仰を集め、1年で1000人くらいの人が祈願に訪れるそうです。美智子様雅子さまがご懐妊のおりには、信徒さんたちが腹帯を献上したそうです。

 大寺院でもったいぶって安置されるでもなく、博物館で文化財として展示されるでもなく、今なお現役で宗教活動をなさっている稀有な仏さまです。

 このブログでは、腹帯観音さまの拝観のみ(安産祈願はなし)をご案内します。

琵琶湖の北端の集落のなかにあります

 腹帯観音様が祀られている大浦十一面腹帯観音堂は、滋賀県は琵琶湖の北端、長浜市の西浅井というところにあります。町名が「にしあざい」。交互に「ん」の字を入れると、なんと「にんしんあんざん(い)」となります。これは奇跡か偶然か。 

 場所は県道西浅井マキノ線から細い道をちょっと東に入ったところにあるので、案内板がありますが、カーナビなどで確認しながら通り過ぎないようにご注意を。観音堂の前には車を数台停められるスペースがあります。

拝観には電話予約が必要です

 この観音堂には住職さんが常住しておらず、地元の信徒の人たちが管理しており、当番の世話方さんが案内してくれます。拝観の際は、あらかじめ世話方さんに電話をして予約する必要があります。

 電話番号は、下の基本情報にリンクした公式サイトに書かれておりますし、また長浜観光協会内の観音コンシェルジュに電話をして聞くこともできます。

 世話方さんはそれぞれ仕事を持ち、ボランディアで勤めておりますので、希望の日時が取れないこともありますが、感謝の気持ちを忘れずに参拝しましょう。

 拝観料は志納(定まった金額なし)となっております。

鮮やかに飾られた新しい観音堂


 観音堂の入り口です。切り株に面白い字体で「十一面腹帯観音」と書かれています。切り株が腐らないように屋根がついているところを見ると、かつては御神木だったのでしょうか?

 正面の奥が観音堂です。手前右手の建物にも仏さまが祀られており、ぽん太も拝ませていただいたのですが、悲しかなぽん太の狸脳、どのような仏さまだったかすっかり忘れてしまいました。


 1931年に再建されたというお堂は、色鮮やかな布で飾られており、建物もアルミサッシュを入れるなど改築されております。現役で「使われている」お堂であることが伺えます。


 お堂の内部の全景です。「撮影禁止」の看板がしっかりありますが、世話方さんは写真を撮ってもいいとのこと。「さすがにネットには出さない方がいいですよね〜」と聞いたら、「どんどん出してください。『仏像が動いた』って書いといて」とのこと。なんかサバけた面白い世話方さんでした。

数奇な運命を辿った十一面腹帯観音


 腹帯観音様は、像高160cmと等身大ですが、すらりと伸びた立ち姿で一段高いところに祀られており、立派な舟形光背が付いているので、けっこう大きく感じます。榧(かや)の一木造。言い伝えでは、平安初期に比叡山延暦寺を創建した伝教大師最澄)が作ったとされておりますが、穏やかな作風から平安後期の作と考えられているそうです。

 特徴は何といっても腹帯を巻いているところ。珍しいですね。観音さまが一週間身につけた腹帯が、安産祈願のお守りとして販売されるそうです。

 冠で見えにくいですが頭上に十一の菩薩面があり、本来は十一面観音さまです。

 お顔は「母性溢れる」という感じではなく、ちょっとすました表情ですが、優しさが感じられます。

 美しい冠や精緻な瓔珞(ようらく)などの飾りに目を奪われて気づきにくいですが、よく見ると胴体はかなり傷んでます。湖北地方は歴史的に姉川賤ヶ岳の戦いの戦場になったので、住民たちが観音様を土に埋めたり池に沈めたりして戦火から守ったのだそうです。

 言い伝えによると、この観音さまは元々近くにある大浦八幡宮の奥野院・観音寺に安置されてましたが、1570年の姉川の戦いの時に、戦火を避けるために近くの池に沈められました。88年後に泥の中から掘り出されましたが、その際に観音様を清めるために巻いた晒しを、腹帯として地域の妊婦に分けたところみな安産だったため、安産祈願の仏様として信仰を集めるようになったそうです。その後は大浦八幡宮の社殿に安置されていましたが、明治維新のときに現在地に移されました。1931年、裏山が崩れたため現在のお堂が再建されたそうです(パンフレットより)。

 しかし腹帯観音様の災難はそれにとどまらず、2003年9月には腹帯観音様が何者かによって盗まれるという事件が発生しました。何とか取り戻したいと、信者さんたちがお金を集めて300万円の賞金をかけて探したところ、1年半後に無事に戻ってきたそうです(戦禍、盗難 超える慈愛 腹帯観音像(もっと関西): 日本経済新聞)。世話方さんの話では、仏さまに賞金をかけることが批判されたり、賞金目当てのガセ情報がいくつもあったりと、いろいろと大変だったそうです。

 傷んだせいかお腹がすこし膨れた体型になっていることも、この仏さまが安産と結び付けられた理由のひとつかもしれません。

 あるいは自分の身をぼろぼろにしながらも新たな生命を育むお姿に、人々が感動してきたたのかもしれません。

 腹帯観音さまは文化財の指定を受けていません。仏像が傷んでいるせいもありますが、文化財に指定されるといろいろと制限があって、腹帯を巻いたりできなくなるため、指定を断ってきた経緯もあるそうです。

 立派な寺院にありがたく祀りあげられるのではなく、また文化財として保護されるのでもなく、現代において地域の人々そして日本中の人々からの信仰を集めていることは、仏さまの本来のあり方なのかもしれません。

両脇に地蔵菩薩毘沙門天がいるのは、京都の清水寺の形式?


 腹帯観音の脇侍として、向かって右に地蔵菩薩、左に毘沙門天が祀られております。像高はともに1m余りで、作風はよく似ており、同時に作られたと思われます。

 十一面観音の脇侍として地蔵菩薩毘沙門天がいるかたちはちょっと珍しい感じがしますが、ぽん太の知識の範囲では、京都の清水寺の形式でしょうか。有名な清水の舞台のある本堂には、秘仏十一面千手観音が、地蔵菩薩毘沙門天を脇侍として祀られております。清水寺を創建した坂上田村麻呂蝦夷と戦ったとき、地蔵菩薩毘沙門天が姿を変えて現れて坂上田村麻呂を助けたことから、この三尊が祀られたそうです(脇侍 地蔵菩薩と毘沙門天 - 清水寺の読み物 | 音羽山 清水寺)。ちなみに清水寺の御本尊と両脇時の御開帳は33年ごとで、次回は2033年です。う〜ん、ぽん太もなんとか見れるかしら。

 さて腹帯観音に話を戻すと、公式サイト(地蔵菩薩 毘沙門天 | home)には、「姉川合戦時、本尊両脇の二尊は悲しくもなくなった。しかし当時19歳だった観音寺住職の沙門蓮心住職が京都へ上り人々の助けを得て享保三年(1718)新たに作製」と書かれていますが、姉川の戦いは1570年で、このとき19歳だった住職が1718年まで生きていたとすると、辻褄があいません。「当時」19歳だったというのが、「姉川の戦いの当時」ではないのかもしれませんが、ちょっとよくわかりません。

 ただ、江戸時代の1718年の作というのは、なるほどその頃のもののような気がします。神秘性や躍動感には欠けますが、二尊とも彩色が綺麗に残っていて、美しく整ったお姿です。

長浜市指定文化財鎌倉時代阿弥陀如来坐像


 向かって左の柱の外側には、このお堂唯一の指定文化財鎌倉時代阿弥陀如来さまが祀られております。像高は見た感じ1mくらいでしょうか。ちょっと下膨れの厳しい表情。全体のプロポーションもよく、衣紋の流れも見事です。13世紀ということで、鎌倉時代の流れを汲みつつも、ちょっと迫力を失って装飾性が増してきている感じでしょうか。見事な美しい仏さまです。


 案内板ですが、「住職を置かず、大浦八幡宮の摂社・正八幡宮のオコナイを斎行する『神行会』(しんぎょうかい)と呼ばれる祭祀組織が堂舎を守っている」と書かれています。

 大浦八幡宮というのは、観音堂のすぐ北東にある大浦八幡神社のことですね。摂社というのは、神社の中にあり、主祭神とは別の神様を祀った小さな社のこと。「オコナイ」というのは関東生まれ育ちのぽん太は初めて聞く言葉ですが、関西、特に滋賀県の湖北地方と甲賀市で盛んに行われる伝統行事で、お供えした餅を各戸に分配し、豊作などを祈るそうです(オコナイ - Wikipedia)。

厨子に納められた小さな如来

 向かって右の柱の外側には、厨子に収められた30cmくらいの小さな仏さまが祀られております。如来形ですが、右腕が失われてしまってますね。膝の上の左手が、なんか乗っけてたような形をしてるので、ひょっとしたら薬師如来か? ちょっとわかりません。

 地域の人に守られ、安産祈願として現役で信仰を集めている素晴らしい仏さまでした。世話方さん、時間をかけていろいろと話をしていただき、ありがとうございました。

基本情報

【寺名】大浦十一面腹帯観音堂
【住所】滋賀県長浜市西浅井町大浦634
【拝観】要電話予約
  電話番号は下記の公式サイトをご覧いただくか、観音コンシェルジュ(長浜観光協会北部事務所内)に電話でお問い合わせください。
【拝観料】拝観は志納。安産の御祈祷や、晒帯・妊婦帯の購入は別料金がかかります。
【公式サイト】https://11haraobi-ooura.wixsite.com/home【駐車場】観音堂の前に数台停めるスペースあり。
【仏像】□長浜市指定文化財
・十一面観音菩薩(腹帯観音) 像高約160dm 榧(かや) 一木造 平安後期
地蔵菩薩
毘沙門天
阿弥陀如来坐像 寄木造 彫眼 鎌倉時代 13世紀
如来坐像