ぽん太のよりみち精神科

たんたんたぬきの精神科医ぽん太のブログです。ココログの「ぽん太のみちくさ精神科」から引っ越してまいりました。以後お見知り置きをお願いいたします。

【バレエ】人生いろいろ、恋もいろいろ 「じゃじゃ馬馴らし」モンテカルロ・バレエ団


 モンテカルロ・バレエ団の「じゃじゃ馬馴らし」を観に東京文化会館まで行ってきました。延々と続くコロナ禍、バレエを見るのは昨年10月のモーリス・ベジャール・バレエの「バレエ・フォー・ライフ」以来、約1年ぶりです。モンテカルロの「じゃじゃ馬馴らし」自体も2020年に予定されていて中止になった企画だそうです。

 さすがおしゃれなモンテカルロ・バレエ団。振り付けもセットも衣装もすべておしゃれです。ダンサーのレベルも高く、小池ミモザちゃんも観れたし、とっても素晴らしい舞台でした。

 この記事は、モンテカルロ・バレエ団の「じゃじゃ馬馴らし」を観たぽん太の個人的な感想です。

シェイクスピアの原作は女性虐待?

 原作は、言わずと知れたシェイクスピアの「じゃじゃ馬ならし」(The Taming of the Shrew)。じゃじゃ馬女キャタリーナを、求婚者ペトルーチオがあの手この手を使って、従順でおとなしい花嫁に「馴らす」という話です。

 ただその方法が、食べさせない、眠らせない、服をズタズタに引き裂くなどというひどいもの。とうとう矯正されたキャタリーナは、ペトルーチオに言われば太陽を月と呼ぶ始末。

 シェイクスピアの時代のイギリスの市民社会では、権威的な夫と貞淑な妻という規範が求められました。それに反する男勝りで口うるさい女性はがみがみ女(scold)と呼ばれて嫌がられ、時にスキミントン(skimmington)という見せしめ的な私刑の対象とされました。可哀想な女性はロバに後ろ向きに乗せられて引き回されたり、椅子に縛り付けられて水に沈められたりしました。たとえば下のリンクをご参照ください。

 「じゃじゃ馬ならし」の女性差別は、現代のみならず古くから批判の対象だったようですが、シェイクスピアの時代の観客にはバカウケだったのかもしれません。

映画やバレエ(クランコ振付)になった「じゃじゃ馬ならし

 「じゃじゃ馬ならし」は演劇の枠を超えて、様々な派生作品を生み出しました。映画では、ぽん太のようなお爺さんにはエリザベス・テイラー主演の「じゃじゃ馬ならし」(1967年)が思い浮かびますが、お若い方にはハイスクールを舞台にした「恋のから騒ぎ」(1999年)の方が馴染みがありますかね。

 バレエの世界では、クランコが振り付けをした「じゃじゃ馬ならし」があり、1969年にシュトゥットガルト・バレエによって初演されたようです(じゃじゃ馬ならし (バレエ) - Wikipedia)。残念ながらぽん太は観たことがありません。全幕のDVDも発売されてないみたいですが、Youtubeで断片的な映像をいくつか見ることができます(the taming of the shrew cranko - Youtube)。例えば下の動画をどうぞ。


 笑いの絶えない楽しい舞台だったようですね。振り付けのテクニックは古典的で、衣装は当時のイタリア風でしょうか。音楽はスカルラッティを編曲したものが使われています。

マイヨー版の「じゃじゃ馬馴らし」

初演はボリショイバレエ団

 さてジャン=クリストフマイヨー振り付けの「じゃじゃ馬馴らし」ですが、初演は2013年で、何とボリショイ・バレエ団とのこと。Youtubeにボリショイの短い動画がありますが(Bolshoi Ballet, The Taming of the Shrew - YouTube)、今回ののモンテカルロとだいぶ印象が違いますね。

ストーリーは「それぞれの愛のかたち」

 ストーリーとしては、「馴らす」「躾ける」といった要素がありません。キャタリーナとペトルーチオは「似たもの同士」という感じで、二人ともまるで幼児性まるだしの野生児といった感じですが、次第に惹かれ合い、二人に似合った愛のかたちを見出すというものになってます。ラストではビアンカとルーセンショーというカップルに加え、残りの二人の求婚者もそれぞれにパートナーを見出し、4組のカップルが成立。往年のヒットソング「二人でお茶を」をバックに、それぞれお茶を楽しみます。人生いろいろ、カップルもいろいろ。いまどきのダイバーシティーの考えを取り入れてるんでしょうか。

 キャタリーナとペトルーチオの間にどのようにして愛が育まれていったのかは、あまり描かれておりません。普通だと、二人の間に何か試練が生じ、それを乗り越えることで二人が成長して……みたいな話になるんでしょうけど、そうなると話が重くなり過ぎてしまいますから、モンテカルロ・バレエ団の大人のためのオシャレな舞台としてはこれでいいのかもしれません。

 ただぽん太は自分が歳をとってきたのと昨今のウクライナ戦争や首相暗殺などの事件のせいで、暴力的なものが苦手になっており、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を見ていても心臓がドキドキして重苦しい気持ちになってくるのですが、バレエの前半のキャタリーナとペトルーチオの傍若無人で粗暴な振る舞いが、見ていてちょっと辛かったです。

音楽はショスタコーヴィッチの映画音楽など

 音楽はショスタコーヴィッチで、映画音楽(「ハムレット」「女ひとり」「馬あぶ」など)を中心に選ばれたものが使われているそうです。どれもけっこう聞きやすい曲でありながら、いかにもショスタコーヴィッチという感じがします。こういう大衆的な曲を次々といくらでも作れるショスタコーヴィッチは、本当に天才ですね。改めて感服いたします。
 なんと下のブログに、「じゃじゃ馬馴らし」で使われたすべての曲名が書かれています。貴重な情報をアップしていただいて感謝いたします。

 ぽん太が聞いたことがある曲はひとつも、いや最後のひとつしかありませんでした。あちこちで耳にする曲ですが、え?これってショスタコーヴィッチなの? もとは「二人でお茶を」という題名で、作曲者はヴィンセント・ユーマンス。1924年に作られたミュージカル「ノー・ノー・ナネット」の中の曲です。この曲をショスタコーヴィッチが編曲して1927年に「タヒチ・トロット」という題名で発表したんだそうです。本人も気に入ったらしく、ちゃんと作品番号16が付けられています。21歳の時のですね。

ダンサーの感想です

 ダンサーの動きはきびきびしていてモダン。表情の変化や演技力も素晴らしいですね。

 エカテリーナ・ぺティナ のキャタリーナは、(いい意味で)野生の馬のような、拘束を嫌い生命力に溢れた女性。ラストでは美しい大人の女性として神々しささえ感じられました。マテイユ・ウルバンのペトル―チオも、最初は粗野で荒々しかったですが、最後は大きさと力強さを感じました。ルーセンショーのレナート・ラドケは独特の中性的な雰囲気があり、痩せた山海塾というか、マシュマロのような感じでした。え〜ビアンカはこんな男性を選んだの?と最初は思ってしまったのですが、現代的な優しいカップルなのかもしれません。小池ミモザちゃんが家庭教師役で大活躍。ちょっと痩せたかしら? 相変わらず可愛くて、演技力も豊かですね。開幕前の注意アナウンスに、ジェスチャーを添えてくれました。それからお父さんのバプティスタ役のクリスティアン・ツヴォルジヤンスキが、柔らかい踊りでポーズが美しくて、ぽん太は個人的に目が止まりました。アダム・リーストのグルーミオも名脇役賞。

マイヨーと鈴木晶氏のプレトークがありました

 公演に先立って、マイヨーのプレトークが行われました。ぽん太はそれを知らなかったので、途中からしか聞けなかったのが残念です。聞き手は鈴木晶氏。奥様が他界された後しばらくは元気なかったようですが、久しぶりにお元気なお姿を拝見できて嬉しかったです。

基本情報

モナコ公国モンテカルロ・バレエ団2022年日本公演
「じゃじゃ馬馴らし」
2022年11月12日 17:00
東京文化会館大ホール
振付 : ジャン=クリストフ・マイヨー
振付アシスタント : ベルニス・コピエテルス
音楽 : ドミートリー・ショスタコーヴィチ
装置 : エルネスト・ピニョン=エルネスト
照明 : ドミニク・ドゥリヨ、マチュー・ステファニー
衣裳 : オーギュスタン・マイヨ―
衣裳アシスタント : ジャン=ミッシェル・レネ
台本 : ジャン・ルオー(ウィリアム・シェイクスピアに基づく)

キャスト:
キャタリーナ : エカテリーナ・ぺティナ
ペトル―チオ : マテイユ・ウルバン

ビアンカ : ルー・ベイン
ルーセンショー : レナート・ラドケ

女家庭教師 : 小池ミモザ
グレミオ : ダニエレ・デルヴェッキオ

未亡人 : アナ・ブラックウェル
ホーテンショー : シモーネ・トリブナ

バプティスタ : クリスティアン・ツヴォルジヤンスキ
グルーミオ : アダム・リースト

メイド : ガエル・リウ、クセニア・アバゾワ、 アシュリー・クラウハウス、ハナ・ウィルコックス、 キャサリンマクドナルド、テイシャ・バートン=ローリッジ、 ポーシャ・ソレイユ・アダムズ、ジュリエット・クライン

従者 : アレシャンドレジョアキム、ベンジャミン・ストーン、 アレッシオ・スコニャミリオ、ロジェ・ネヴェス、 アルチョム・マクサコフ、ジーノ・メルクス、 クーン・ハブニット、フランチェスコ・レッシュ

4人の女性たち : クセニア・アバゾワ、ハナ・ウィルコックス、 ジュリエット・クライン、アシュリー・クラウハウス

2人の女性たち : ハナ・ウィルコックス、アシュリー・クラウハウス

森 / 盗賊 : アルチョム・マクサコフ、アレッシオ・スコニャミリオ、 ジーノ・メルクス、ベンジャミン・ストーン、 フランチェスコ・レッシュ、アレシャンドレジョアキム