マチネのAプロに続き、本日のダブルヘッダー第2試合、Bプロです。さすがにちょっと頭がぼーっとしましたが、合間で食べた鰻のおかげか、最後まで眠くならずに観ることができました。
Aプロ、Bプロを1日で観てぽん太の頭はごっちゃになっているので、印象に残ったところだけを書き留めておきたいと思います。
現代の街角の哀愁、マルコ・ゲッケ振付の『悪夢』
この作品を初めて観たのですが、久々に素晴らしい作品に出会えました。
キース・ジャレットのピアノに合わせ、暗い舞台上でフォーゲルがカクカク、ピクピクと動き出します。動画の倍速再生のような、けいれんのような、機械的でちょっとコミカルな動きです。「な〜んか退屈なコンテンポラリーが始まったな」とぽん太は思いました。
そのうちボラックもカクカク、ピクピクと出てきて、フォーゲルと絡み出します。
でも観ているうちに、二人がなんだか現代社会に生きているわれわれのような気がしてきました。ともにジーンズにタンクトップという出立ちで、肉体労働者のカップルのようです。社会の底辺にいる二人が、ときにはいがみあい、時には助け合いながら必死に生き、そして喜びを感じているように見えてきます。
後半は音楽がレディ・ガガの歌になり(ぽん太は題名はわかりませんが)、二人の愛がカクカク、ピクピクと描かれます。フォーゲルが次々とマッチを擦っては、火をかき消していきます。どういう意味なのかわかりませんが、残された白い煙がスポットに照らされて印象的です。二人の愛の炎なのか、それともマッチ売りの少女が見る幻影なのか。
胸が締め付けられるようで涙が出そうになりました。
いや〜こんな作品もあるんだと思いましたが、もう一度観たいかと聞かれると、よくわかりません。
ちなみに振付のマルコ・ゲッケ(Marco Goecke)を検索すると、有名批評家の顔に犬のふんを塗り付け、所属するバレエ団(ハノーバー州立劇場)から停職処分を受けたという新聞記事が出てきます。やはりタダモノではないようです。
ゲッケは1972年生まれのドイツの振付家。『悪夢』は2021年にシュトゥットガルト・バレエ団に振り付けたもののようです。
良家子女は観覧禁止、濃厚ラブロマンス・シリーズ
ソワレのBプロは、マチネのAプロに比べ、大人向けの男女の濃厚な作品が多かったです。
パリエロとフォーゲルの『マノン』より"寝室のパ・ド・ドゥ"。パリエロはAプロでは『カルメン』でキレのある踊りを見せてくれましたが、『マノン』では優雅な動きで愛の悦びを表現してくれました。フォーゲルはうまいけどやっぱりパリオペラ座の柔らかさがなく、女性扱いが荒い気がしました。
アルビッソンがベザールを相手に『椿姫』。ヴィオレッタは最初は「はいはい、ありがと」とあしらってますが、だんだんと「悪いこと言わないから止めときなさい」、「あなた本気なの」と変わってきます。アルフレードの求愛もだんだん熱がこもってきます。最後にはヴィオレッタは恋の悦びを満面にたたえながら舞台を去っていきます。ベテランのアルビッソンと若手のべザールの組み合わせがストーリーにぴったりでした。
『うたかたの恋 マイヤーリング』は、第2幕のマリーとルドルフのパ・ド・ドゥ。ジルベール姐さんがマルシャンと踊りました。過激な踊りで、コスチュームも露出的だし、ガイコツやらピストルやら出てきます。暴力的でセクシャル。それでいて品が悪くならず、感動的な舞台でした。
ハツラツ娘クララ・ムーセーニュの『パリの炎』
Aプロでぽん太が魅了されたクララ・ムーセーニュが、Bプロでは『パリの炎』を踊りました。観ていてこっちもニコニコしてしまいます。グラン・フェッテでは腰に手をあててのドゥブルを入れてました。
公式サイトのプロフィールによると、『瀕死の白鳥』や、『眠れる森』のオーロラ姫も踊っているようです。次はしっとりした踊りも観てみたいです。
誘惑に惑わされないアルビッソンの『オネーギン』
Aプロに「鏡のパ・ド・ドゥ」がありましたが、Bプロでは第3幕の「手紙のパ・ド・ドゥ」。
ここでのタチヤーナはともすればオネーギンの求愛に流されそうになり、見てる方もハラハラ、というのが多いような気がしますが、アルビッソンのタチヤーナは、子供じみた(そして自分勝手な)オネーギンの誘惑に負けそうなそぶりは見せませんでした。
もちろん今もオネーギンを愛しているのでしょう。そして子供だった頃の胸を焦がすような初恋を思い出したことでしょう。でもなんであの時に私の愛を受け止めてくれず、夫に嫁いだ今になって自分の前に現れたのか。取り返せない時間、人生におけるすれ違いの残酷さを思い、哀しんでいたにちがいありません。
実はぽん太は、オネーギンの手紙をタチヤーナが破るというクランコの演出は好きじゃありません。愛する人に捧げた手紙を破り捨てられることの辛さを、タチヤーナは痛いほどわかっているはずです。オネーギンに昔の仕返しをするのではなく、貴婦人らしく毅然とした態度で、彼の子供じみた振る舞いを退けて欲しいとぽん太は思います。
公演情報
ル・グラン・ガラ2023 Bプロ
2023年8月2日
東京文化会館
『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』
振付:ジョージ・バランシン 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
レオノール・ボラック トマ・ドキール
『マノン』より“出会いのパ・ド・ドゥ”
振付:ケネス・マクミラン 音楽:ジュール・マスネ
ドロテ・ジルベール ユーゴ・マルシャン
『マノン』より“寝室のパ・ド・ドゥ”
振付:ケネス・マクミラン 音楽:ジュール・マスネ
リュドミラ・パリエロ フリーデマン・フォーゲル
『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』
振付:ウィリアム・フォーサイス 音楽:トム・ウィレムス
ビアンカ・スクダモア オードリック・ベザール
『オネーギン』
振付:ジョン・クランコ 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
アマンディーヌ・アルビッソン マチュー・ガニオ
『パリの炎』
振付:ヴァシリー・ワイノーネン 音楽:ボリス・アサフィエフ
クララ・ムーセーニュ ニコラ・ディ・ヴィコ
『コンチェルト』
振付:ケネス・マクミラン 音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィチ
ビアンカ・スクダモア トマ・ドキール
『ヴィヴァルディ・パ・ド・ドゥ』
振付:ジル・イゾアール 音楽:アントニオ・ヴィヴァルディ
リュドミラ・パリエロ マチュー・ガニオ
『悪夢』
振付:マルコ・ゲッケ 音楽:キース・ジャレット、レディ・ガガ
レオノール・ボラック フリーデマン・フォーゲル
『椿姫』
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:フレデリック・ショパン
アマンディーヌ・アルビッソン オードリック・ベザール
『うたかたの恋 マイヤーリング』
振付:ケネス・マクミラン 音楽:フランツ・リスト
ドロテ・ジルベール ユーゴ・マルシャン