ぽん太のよりみち精神科

たんたんたぬきの精神科医ぽん太のブログです。ココログの「ぽん太のみちくさ精神科」から引っ越してまいりました。以後お見知り置きをお願いいたします。

【歌舞伎】シン團十郎への期待と不安・2022年11月歌舞伎座夜の部


 2022年11月中旬、ぽん太とにゃん子は團十郎の襲名披露公演を観に歌舞伎座に行ってきました。前回歌舞伎を観たのは2020年8月。なんと2年3ヶ月ぶりです。

 今回の公演は、十三代目市川團十郎襲名披露&八代目市川新之助初舞台。歌舞伎界では数十年に一度という画期的なイベントですが、いまいち盛り上がりに欠けるのはコロナのせいだけではなさそうで、新團十郎が人望に欠けるところが災いしているのかも。でも久々の歌舞伎は良かったです。

大向こうが2年半ぶりに再開

 今月の公演から大向う(掛け声)が約2年半ぶりに再開。ただし一般のお客さんの大向うは禁止で、劇場指定の関係者2名が3階席後方(いわゆる幕見席の一番後ろ)から掛けるというかたちになってました。やっぱり大向こうが掛かると舞台が引き締まりますね。歌舞伎を盛り上げる重要な要素であることが改めてわかりました。

 2年前に歌舞伎座に来た時は、感染対策のため座席一個開けでしたが、今回はぎっしり入っていました。でも客席での会話は禁止、ロビーでもできるだけ会話は控えるようにとのこと。また客席での食事も解禁されてましたが、劇場内アルコール禁止でした。

豪快な幸四郎の「矢の根」

 まず初めは「矢の根」。いわゆる歌舞伎十八番のひとつです。

 歌舞伎十八番とは、天保年間(1830〜1844)に七代目市川團十郎がまだ五代目市川海老蔵だった頃、市川家のお家芸として選んだ18演目。いずれも超人的で勇猛果敢な正義の味方が主人公となる「荒事」の演目です。

 「矢の根」の主人公は曽我五郎。父の仇である工藤祐経を討とうとしています。大河ドラマの「鎌倉殿の13人」に出てきましたよね。

 ただ古典的な演目なので、役者のセリフも、義太夫の語りも、何を言ってるかよくわからないのが悲しいところ。最初になんかでっかい矢を研いでいて、途中で亡霊みたいなのが出てきて、最後に大根を持って馬に乗っていくことしかわかりません。あらすじを知りたい方は、下の「基本情報」でリンクした公式サイトをご覧ください。

 曽我五郎を演じたのは幸四郎。コロナ禍でしばらく見ないうちに、線が太くなって恰幅が出てきました。以前は細くて華奢な印象だったけど。

なんか含みがある「口上」

 続く「口上」は、團十郎新之助以外はたったの5人。す、少な〜。確かに重鎮がそろってましたけど……。コロナとは関係ないよね。

 口上の内容ですが、シン團十郎のお父さんの十二代目の思い出話が多いのは仕方ないけど、なんかみんな含みがあるというか、毒があるというか……。

 進行役の白鸚がいきなり「先輩を敬い、同輩とは舞台で火花を散らし、後輩や一門には優しい気持ちで接して」みたいなことを言い、客席から苦笑が漏れてました。團十郎が先輩を敬ってないし、同輩と舞台以外でいがみあっていて、後輩や一門に厳しいと言ってるみたいなもんですからね。紳士の梅玉仁左衛門は当たり障りなく褒めてましたが、菊五郎は「昔は暴れん坊将軍と呼ばれてました」と笑いを取ってました。左團次に至っては、「團十郎になって手の届かない高いところに行ってしまったと思うでしょうが、もうほおっておいて、息子の新之助を応援しましょう」みたいなことを言い、ぽん太も聞いていてギャグなのか本気なのかよくわかりませんでした。團十郎は「ありがたいお言葉を頂戴しました」とか神妙な面持ちで言ってたけど、内心は「俺の襲名披露でなんてこと言うんだ」と思ってたりして。

 ぽん太自身の感想としてはシン團十郎、舞台以外のことは置いとくにしても、昔はシリアスなところで客が笑い出すようなヘンテコな演技をしたり、大声が鼻にかかってたり、見得の時に「ハ〜ッ」と息を吐く音をたてたり、また大阪松竹座の「女殺油地獄」で何かやらかして途中休演し恐れ多くも仁左衛門丈に代演させたりと(ぽん太は仁左衛門の「油地獄」が観れると、あわてて切符取って大阪まで見に行きましたけど)、確かに言語道断・暴れん坊将軍だったけど、反発していた父に暴行事件で助けられ、その父が癌で他界し、愛する妻もまた癌で他界し、人間として成長したように思ってます。ぜひ今後も精進して、令和の時代の「團十郎」になって欲しいです。

 最後に團十郎が見せてくれた睨みは、気迫がこもって素晴らしかったです。

ベテラン勢が名アシスト「助六

 これも歌舞伎十八番のひとつの「助六」は、江戸歌舞伎ならではのゆったりした進行で、役者に実力がないと間伸びしてしまう演目ですが、仁左衛門梅玉魁春鴈治郎東蔵など、ベテランの芸の粋を集めてシン團十郎を支え、素晴らしい舞台となりました。

 シン團十郎は確かに美しいし、荒事らしい力強さと、子供のような奔放さを兼ね備えてます。ただ喧嘩の啖呵の「コリャまた、なんのこったい」は、変にニュアンスを入れない十二代目の方が、バカっぽくて腹が立ちそうでした。

 シン新之助初舞台の福山の担ぎ、ついこの前までは「幼児」だったのに、しっかりした役者になってました。今後が楽しみです。お父さんのように傍若無人の天狗にならないように祈るばかりです。

 菊之助の揚巻、気品さと誠実さはありましたが、匂い立つような色気には欠けたか。

 先に幸四郎がいつのまにか太っていたと書きましたが、児太郎も太ってたのにはびっくり。はじめは芝のぶちゃんかと思いました。

 ところでぽん太、今回は3階の西席しか取れませんでした。しかしご存知のように、この席は花道が全く見えません。「助六」で、花道の揚巻も助六も観れないと言うのは、かなりストレスでした。3階西席の値段は歌舞伎座B席扱いでいいんじゃないかと思いますが、松竹さんいかがでしょう?

基本情報

市川海老蔵改め
十三代目 市川團十郎白猿襲名披露
十一月吉例顔見世大歌舞伎     
八代目 市川新之助初舞台

2022年11月
歌舞伎座

夜の部
一、歌舞伎十八番の内矢の根(やのね)
   曽我五郎  幸四郎
   曽我十郎  巳之助 
   馬士畑右衛門  吉之丞 
   大薩摩文太夫  友右衛門

二、十三代目市川團十郎白猿・八代目市川新之助
  襲名披露 口上(こうじょう)
   海老蔵改め團十郎
   初舞台新之助
   白鸚
   仁左衛門
   左團次
   梅玉
   菊五郎

三、歌舞伎十八番の内 助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)
  河東節十寸見会御連中
   花川戸助六   海老蔵改め團十郎
   三浦屋揚巻   菊之助
   髭の意休   松緑
   三浦屋白玉   梅枝
   朝顔仙平   又五郎
   福山かつぎ   初舞台新之助
   男伊達山谷弥吉   彦三郎
   同  田甫富松   坂東亀蔵
   同  竹門虎蔵   萬太郎
   同 砂利場石造   廣太郎
   同  石浜浪七   青虎
   傾城八重衣   児太郎
   同  浮橋   廣松
   同  胡蝶   莟玉
   同  愛染   團子
   同 誰ヶ袖   笑三郎
   茶屋廻り   男寅
   同   玉太郎
   奴奈良平   九團次
   国侍利金太   男女蔵
   遣手お辰   齊入
   通人里暁   鴈治郎
   三浦屋女房   東蔵 
   曽我満江   魁春
   白酒売新兵衛    梅玉
   くわんぺら門兵衛   仁左衛門

   口上   幸四郎
   後見   右團次