ぽん太のよりみち精神科

たんたんたぬきの精神科医ぽん太のブログです。ココログの「ぽん太のみちくさ精神科」から引っ越してまいりました。以後お見知り置きをお願いいたします。

追悼・飯守泰次郎:ぽん太が選んだ名演ベスト2

 指揮者の飯守泰次郎氏が8月15日、82歳で他界したというニュースが流れました。ご冥福をお祈りいたします。

 このブログでは、単なるクラシック愛好家のぽん太の印象に残った名演について書きます。

東京シティフィルの定期演奏会新国立劇場オペラで聴かせていただきました

 ぽん太は以前に東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団定期演奏会によく出かけていた時期があり、その頃の常任指揮者が飯守泰次郎さんだったので、けっこういろいろな演奏を聴かせていただきました。調べてみると、氏が常任指揮者だったのは1997年から2012年までのようで、2012年4月にオーボエ奏者として有名だった宮本文昭氏がシティフィルの音楽監督に就任したの機に、自らは桂冠名誉指揮者になりました。

 また2014年から2018年まで新国立劇場オペラ部門芸術監督を務めましたが、ワーグナーの楽劇を全部自分で指揮したのが印象的でした。バイロイト音楽祭に長く関わってきた飯守さん、ワーグナーを自分で振ることができてきっと嬉しかったことでしょう。

学級肌で、ピアノを弾きながらの楽曲解説も素晴らしかった

 ぽん太はヴァーグナーは聴き込んでいないので、あれこれ言うことはできません。昔のシティフィル時代の印象で言うと、ゆっくりめのテンポだけど重々しすぎたり粘っこくなったりせず、重厚というよりは、壮大で悠々たる演奏だったと思います。

 また学究肌というかオタク系のところがあって、2010年から翌年にかけてマルケヴィチ版のベートーヴェンの全交響曲演奏会という企画がありました。全交響曲演奏会というだけでも凄いですが、氏はその10年前には新ベーレンライター版による全交響曲演奏会を行なっている(しかも東京シティフィルと関西フィルで)と聞いてぽん太はびっくり。2つの異なる版の楽譜を使い、違いを研究し、オケと練習を積み重ねて、両者を演奏し分けるというのは、相当マニアックじゃないとできません。

 それから氏が得意とするピアノを演奏しながらの楽曲解説もとても興味深く、毎回楽しみにしておりました。シティフィルの定期演奏会では、「プレトーク」と称して演奏会の前に生で行われました。聞き手が一人ついていましたが、聞き手というよりか、本人一人でやらせると際限なく話し続けてしまうので、実はお目付け役だという噂でした。新国立劇場では動画をアップする形でしたが、ぽん太のような初心者にはとても勉強になり、面白かったです。

名演第2位、チャイコフスキーの「悲愴」

 ぽん太の印象に残る演奏の第2位は、チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」です。第1楽章の展開部のクライマックスで、強烈な和音が大音量で響き渡ったのですが、ぽん太はちょっと調性がわからないような錯覚に陥り、不協和音のように聞こえました。やがてそれを背景にトロンボーンが強烈に鳴り響きます。次いで別の和音が大音響が奏され、またトロンボーンが鳴り響きました。

 普通はここはクライマックスから再現部の第2主題へと徐々に静まっていくところで、そういう流れでさらりと演奏されるのが普通だと思うのですが、ぽん太にはまるで突然抽象絵画を見せられたように思え、衝撃を受けました。

 チャイコフスキーワーグナーの影響を強く受けているとそうで、ぽん太は「へ〜どこが?」と思ってたのですが、この部分はまさにワーグナーのようでした。ワーグナーに精通する飯守さんだからこそ、このような演奏が可能だったのかもしれません。

 

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団第255回定期演奏会チャイコフスキー交響曲全曲シリーズ第3回~
2012年1月18日) 東京オペラシティ コンサートホール
管弦楽東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
曲目 チャイコフスキー交響曲第1番ト短調「冬の日の幻想」/交響曲第6番ロ短調「悲愴」

名演第1位、ベートーヴェンの「田園」

 パンパカパ〜ン! 印象に残る飯守さんの演奏第1位は、ベートーヴェン交響曲第6番「田園」です。上で書いたマルケヴィチ版チクルスのひとつでしたが、ゆっくりめのテンポのロマンチックな出だしで、現代風な早いテンポのクレバーな演奏とは異なるスタイルでした。

 それまでぽん太は「田園」というと、田舎の人たちの生活を音楽で描いてみました、みたいな軽い曲だと思っておりました。

 雷雨をオーケストラで表現しましたみたいな第4楽章は、飯守さんの演奏はかなり気合いが入っており、真剣な表情で棒を力強く振ってました。

 そして第5楽章。飯守さんはゆっくりめのテンポで細かなニュアンスを入れずに第1主題を演奏し、メロディーが繰り返されるたびに少しづつ音量を上げていきました。

 そこから聞こえてくるのは、嵐が過ぎて嬉しや嬉しやという村人の牧歌ではなく、人智を超えた自然の脅威に対する恐れ、それが過ぎ去ったことでの安堵というより虚脱感でした。嵐で命を落とした人もいるはずです、家屋や畑など多くのものが失われたことでしょう。廃墟のなかから一人また一人と顔をあげ、犠牲者に対して祈りを捧げ、生き残ったことを感謝するしかありません。

 ぽん太の脳裏には東日本大震災津波の被害が浮かんできて、涙が込み上げてきて止まらなくなりました。「田園」で泣いたのは生まれた初めてでした。オペラシティのP席に座っていたので、見られているようでちょっと恥ずかしかったです。

 飯守さんの「田園」を聴くと、「運命」の第4楽章の勝利の凱歌がいかにも単純・軽薄に聴こえてきます。苦難の果てに哀しみと無力さを自覚する「田園」のなんと奥深いことか。

 あとでyoutubeでいろいろな指揮者の演奏を聴いてみましたが、悼みや悲しみを抱えた第5楽章は見つかりませんでした。飯守さんの個人的な体験に根ざしているのかもしれないし、オペラに長く関わることで「田園」に劇的な何かを見出したのかもしれません。

 

ベートーヴェン交響曲全曲シリーズ第2回
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団第241回定期演奏会
2010年7月15日 東京オペラシティ
管弦楽東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
曲目 ベートーヴェン:「エグモント」序曲/交響曲第8番ヘ長調交響曲第6番ヘ長調「田園」 

文楽「菅原伝授手習鑑」ついに通し上演の大団円 国立劇場2023年9月第2部

 8・9月の国立劇場文楽は、「菅原伝授手習鑑」の通し上演の後半。

 どれを観ようかな? 高潔温厚な菅丞相が激おこして雷神に変ずるという4段目「天拝山」も興味深いですが、やはり「寺子屋」がある第2部にしました。

 で、「寺子屋」……。感動で涙が止まりませんでした。文楽の方が歌舞伎よりも没入できますね。

 このブログは単なる文楽好きのぽん太の個人的感想です。

寿式三番叟

 歌舞伎でもお馴染み。天下泰平と五穀豊穣を祈るおめでたい舞いです。

 来月(2023年10月)末をもって国立劇場は閉場となり、2029年秋の再開を待つことになります。だいぶ先ですね〜。その間はどうするんでしょ。国立劇場の今後の発展を願って選ばれた演目だそうです。

 ずらりと並んだ太夫さんと三味線が、祝祭の雰囲気を盛り上げます。

 爽やかな千歳の舞いに続いて、天下泰平を祈る翁の荘重な舞い。そして最後は二人の三番叟が、激しく床を踏み鳴らしながら五穀豊穣を祈ります。

 歌舞伎の三番叟も迫力がありますが、文楽の場合は人間では絶対にありえない動きもあり、一層の激しさです。普段は目立たない足遣いさんたちが大活躍で、頭巾の下は汗だくになってたんじゃないでしょうか?

菅原伝授手習鑑

北嵯峨の段

 休憩を挟み、一転してシリアスなドラマです。

 最初の「北嵯峨の段」は、菅丞相の奥さん(御台所)が身を隠している北嵯峨の侘び住まいに追っ手が迫ります。桜丸の妻の八重は奮闘虚しく討ち死に。御台所は間一髪のところを謎の山伏に助けられます。

 実はこの山伏は松王丸で、「寺子屋の段」で松王丸が御台所を連れてくる伏線になってます。

 1772年(昭和47年)以来51年ぶりの上演という珍しい段だそうです。

寺入りの段/寺子屋の段

 普段歌舞伎を観る機会が多いぽん太は、ついつい歌舞伎と比較しながら観てしまいましたが、生身の人間よりも人形の方が感情移入しやすいのか、とっても感動いたしました。

 歌舞伎だと、役者が名台詞をどのように言うかとか、芝居の型をどう演ずるかに注意が行ってしまうのですが、文楽だと純粋にストーリーに没入できる気がします。

 源蔵と戸波が「鬼になって」と、菅秀才の身代わりに小太郎をことによっては母親もろとも殺そうと決意をするところなど、鬼気迫るものがありました。

 松王丸と千代が嘆く場面では、歌舞伎では松王丸は悲しみを隠して気丈に振る舞い、桜丸にかこつけて「源蔵殿、御免くだされ」と大泣きしますが、文楽ではこのセリフは無く、その前から松王丸は扇子を思わず落としたり、懐紙で目頭を押さえたりと、悲しみを表に出しておりました。

 菅秀才が「我に代わると知るならば、この悲しみはさすまいに。不憫ふびんなものや。」と同情を寄せて涙をぬぐう場面に関しては、文楽人形よりも歌舞伎の子役の独特の台詞まわしの方が、菅秀才の高貴さが感じられるように思いました。

 ラストの名曲「いろは送り」は、文楽だと字幕を見ながら聴けるので、詞章をよく理解することができました。清治の三味線にのせ呂勢太夫が切々と語ってくれました。

 人形では簑二郎の千代が素晴らしかったです。松王丸は玉助、源蔵と千代は玉也と簑二郎。

五段目「大内天変の段」

 この段も「北嵯峨の段」と同じく51年ぶりの上演だそうです。藤原時平のいる宮中に雷が落ち、側近が次々と死んでいきます。ついで現れた桜丸と妻・八重の亡霊によって時平は追い詰められ、苅屋姫と菅秀才によってトドメをさされます。そして斎世親王と菅原家は復権を果たし、菅丞相は「南無天満大自在天神」として北野天満宮に祀られることになります。

 菅原道真天神信仰に関しては、以前の記事で少し触れたことがあります。

 道真が903年に死去してから、天皇の子息や朝廷の要人が次々と亡くなり、道真の怨霊のせいだという噂が広がりました。藤原時平(ふじわらのしへい)のモデルとなった藤原時平(ふじわらのときひら)は、909年に病死。また930年には宮中の清涼殿に落雷があり、多くの公卿が亡くなり、その惨状のショックから醍醐天皇まで3ヶ月後に崩御するなどして、道真が雷神となって雷を落としたと考えられるようになりました。道真が「天満大自在天神」として北野天満宮に祀られたのは947年でのことです。文楽ではこれらの事件をひとつにまとめているようですね。

 こうしてみると、やっぱり第1部の「天拝山の段」も観ておきたかったな〜。菅丞相が雷神に返信する話で、菅丞相と牛の関わりも出てくるそうです。

公演情報

文楽

国立劇場
2023年8・9月

第二部

寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)

 翁 咲太夫
  千歳  呂太夫 
  三番叟 錣太夫 
  三番叟 千歳太夫 
      咲寿太夫 
      聖太夫
      文字栄太夫
      燕三
      藤蔵
      勝平
      清志郎
      錦吾
      燕二郎
      清方

  千歳  紋臣
  翁   勘十郎
  三番叟 玉勢
  三番叟 簑紫郎

通し狂言 菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)

四段目
 北嵯峨の段
   希太夫  團吾
 寺入りの段
   亘太夫 友之助
 寺子屋の段
  切 呂太夫 清介
  後 呂勢太夫 清治

五段目
 大内天変の段    
  小住太夫 寛太郎

人形役割
  松王丸 玉助
  女房春 清五郎
  女房八重 一輔
  御台所 文昇
  星坂源吾 玉路
  菅秀才 簑悠
  よだれくり 勘介
  女房戸波 勘壽
  女房千代 簑二郎
  小太郎 清之助
  下男三助 玉峻
  武部源蔵 玉也
  春藤玄蕃 文司
  法性坊阿闍梨 簑一郎
  斎世親王 玉翔
  苅屋姫 玉誉
  左大臣時平 玉志
  三善清貫 和馬
  桜丸 勘彌
  捕手・寺子・百姓 大ぜい  

リアブコのソロも見たかった 勅使川原三郎〈ランボー詩集 「地獄の季節」から「イリュミナシオン」へ〉

 お盆休みのさなか、勅使川原三郎の〈ランボー詩集 「地獄の季節」から「イリュミナシオン」へ〉を観に池袋まで行ってきました。

 ぽん太の好きなバレエダンサー、アレクサンドル・リアブコが出演していたからです。

 このブログには、ダンスにも詩にもド素人なぽん太の個人的感想が書かれています。

感想

 リアブコは、ジョン・ノイマイヤー率いるハンブルク・バレエ団のベテランダンサー。王子様キャラというよりは性格俳優といった存在で、独特の表現が素晴らしく、『ニジンスキー』における何かが憑依したような鬼気迫る踊りが頭から離れません。

 豆知識ですが、彼はキーウ生まれのウクライナ人です。

 リアブコが勅使川原三郎とコラボしていることは知ってたのですが、これまで観に行く機会に恵まれませんでした。今回の公演は先日バレエを見に行った時にもらったチラシで知り、お盆休み中で予定がなかったので行ってみることにしました。

 切符を取ったのが公演直前だったにもかかわらず、1階の真ん中くらいの良席を取ることができました。ラッキーだな〜と思いながら当日行ってみると、ホールの後ろ半分はほとんど空席でした。ダンス人口はまだまだ少ないんですねえ。

 無料パンフレットが、素晴らしい写真や、勅使河原のドローイングが入っていて驚く。

 勅使川原三郎の舞台は、ぽん太はかなり昔に1度だけ観たことがあるのですが、最後の方でダンサーたちが延々とその場ジョギングしていた記憶しかありません。調べてみると今を去ること14年前、2009年9月に新国立劇場中劇場で行われた〈鏡と音楽〉でした。その時のブログ記事を下にリンクしておきます。

【舞踏】勅使川原三郎の踊りと美術はすばらしかったが舞台全体としては?「鏡と音楽」: ぽん太のみちくさ精神科

 今回の舞台、ダンス公演としては面白かったのですが、あいにく勅使河原の舞台を見るのが2回目だったので、どこがランボーなのかまでは分かりませんでした。舞台上の大きな衝立が半開きの詩集であることはわかったのですが😅。何度も観てる人は、いつもとココが違うな、ココがランボーっぽいな、とわかるんでしょうけど。

 お目当てのリアブコはなかなかいい旋回系の動きをしてましたが、ハビエル・アラ・サウコとともにバックダンサー的な位置付けだったのが残念です。リアブコのソロもじっくり観てみたかったです。

 近年リアブコが勅使川原とコラボを繰り返しているのなぜなんだろう。調べているうちに下の記事がみつかりました。

 決められた振付を踊るという西洋のバレエとは異なり、感覚や感情・思考・音楽などに共振しながら自分自身の身体の動きを見出していくという勅使河原のメソッドに、はまったみたいですね(うまく言えませんが)。

 でも上の動画の振り付けがあらかじめ決められたものっていうのも、信じられない感情移入能力と表現力だと思います。

 リアブコも45歳、バレエダンサーとしてのキャリアもそろそろ終わりを迎えます。今後の方向性を模索しているのかもしれません。

公演情報

勅使川原三郎ランボー詩集 「地獄の季節」から「イリュミナシオン」へ〉

2023年8月13日
東京芸術劇場 プレイハウス

勅使川原三郎
佐東利穂子
アレクサンドル・リアブコ
ハビエル・アラ・サウコ

振付/演出/美術・照明・衣装デザイン/音楽構成:勅使川原三郎
アーティスティック・コラボレーター:佐東利穂子

マルコ・ゲッケ振付の『悪夢』に衝撃を受ける〈ル・グラン・ガラ2023〉Bプロ

 マチネのAプロに続き、本日のダブルヘッダー第2試合、Bプロです。さすがにちょっと頭がぼーっとしましたが、合間で食べた鰻のおかげか、最後まで眠くならずに観ることができました。

 Aプロ、Bプロを1日で観てぽん太の頭はごっちゃになっているので、印象に残ったところだけを書き留めておきたいと思います。

現代の街角の哀愁、マルコ・ゲッケ振付の『悪夢』

 この作品を初めて観たのですが、久々に素晴らしい作品に出会えました。

 キース・ジャレットのピアノに合わせ、暗い舞台上でフォーゲルがカクカク、ピクピクと動き出します。動画の倍速再生のような、けいれんのような、機械的でちょっとコミカルな動きです。「な〜んか退屈なコンテンポラリーが始まったな」とぽん太は思いました。

 そのうちボラックもカクカク、ピクピクと出てきて、フォーゲルと絡み出します。

 でも観ているうちに、二人がなんだか現代社会に生きているわれわれのような気がしてきました。ともにジーンズにタンクトップという出立ちで、肉体労働者のカップルのようです。社会の底辺にいる二人が、ときにはいがみあい、時には助け合いながら必死に生き、そして喜びを感じているように見えてきます。

 後半は音楽がレディ・ガガの歌になり(ぽん太は題名はわかりませんが)、二人の愛がカクカク、ピクピクと描かれます。フォーゲルが次々とマッチを擦っては、火をかき消していきます。どういう意味なのかわかりませんが、残された白い煙がスポットに照らされて印象的です。二人の愛の炎なのか、それともマッチ売りの少女が見る幻影なのか。

 胸が締め付けられるようで涙が出そうになりました。

 いや〜こんな作品もあるんだと思いましたが、もう一度観たいかと聞かれると、よくわかりません。

 ちなみに振付のマルコ・ゲッケ(Marco Goecke)を検索すると、有名批評家の顔に犬のふんを塗り付け、所属するバレエ団(ハノーバー州立劇場)から停職処分を受けたという新聞記事が出てきます。やはりタダモノではないようです。

 ゲッケは1972年生まれのドイツの振付家。『悪夢』は2021年にシュトゥットガルト・バレエ団に振り付けたもののようです。

良家子女は観覧禁止、濃厚ラブロマンス・シリーズ

 ソワレのBプロは、マチネのAプロに比べ、大人向けの男女の濃厚な作品が多かったです。
 パリエロとフォーゲルの『マノン』より"寝室のパ・ド・ドゥ"。パリエロはAプロでは『カルメン』でキレのある踊りを見せてくれましたが、『マノン』では優雅な動きで愛の悦びを表現してくれました。フォーゲルはうまいけどやっぱりパリオペラ座の柔らかさがなく、女性扱いが荒い気がしました。

 アルビッソンがベザールを相手に『椿姫』。ヴィオレッタは最初は「はいはい、ありがと」とあしらってますが、だんだんと「悪いこと言わないから止めときなさい」、「あなた本気なの」と変わってきます。アルフレードの求愛もだんだん熱がこもってきます。最後にはヴィオレッタは恋の悦びを満面にたたえながら舞台を去っていきます。ベテランのアルビッソンと若手のべザールの組み合わせがストーリーにぴったりでした。

 『うたかたの恋 マイヤーリング』は、第2幕のマリーとルドルフのパ・ド・ドゥ。ジルベール姐さんがマルシャンと踊りました。過激な踊りで、コスチュームも露出的だし、ガイコツやらピストルやら出てきます。暴力的でセクシャル。それでいて品が悪くならず、感動的な舞台でした。

ハツラツ娘クララ・ムーセーニュの『パリの炎』

 Aプロでぽん太が魅了されたクララ・ムーセーニュが、Bプロでは『パリの炎』を踊りました。観ていてこっちもニコニコしてしまいます。グラン・フェッテでは腰に手をあててのドゥブルを入れてました。

 公式サイトのプロフィールによると、『瀕死の白鳥』や、『眠れる森』のオーロラ姫も踊っているようです。次はしっとりした踊りも観てみたいです。

誘惑に惑わされないアルビッソンの『オネーギン』

 Aプロに「鏡のパ・ド・ドゥ」がありましたが、Bプロでは第3幕の「手紙のパ・ド・ドゥ」。

 ここでのタチヤーナはともすればオネーギンの求愛に流されそうになり、見てる方もハラハラ、というのが多いような気がしますが、アルビッソンのタチヤーナは、子供じみた(そして自分勝手な)オネーギンの誘惑に負けそうなそぶりは見せませんでした。

 もちろん今もオネーギンを愛しているのでしょう。そして子供だった頃の胸を焦がすような初恋を思い出したことでしょう。でもなんであの時に私の愛を受け止めてくれず、夫に嫁いだ今になって自分の前に現れたのか。取り返せない時間、人生におけるすれ違いの残酷さを思い、哀しんでいたにちがいありません。

 実はぽん太は、オネーギンの手紙をタチヤーナが破るというクランコの演出は好きじゃありません。愛する人に捧げた手紙を破り捨てられることの辛さを、タチヤーナは痛いほどわかっているはずです。オネーギンに昔の仕返しをするのではなく、貴婦人らしく毅然とした態度で、彼の子供じみた振る舞いを退けて欲しいとぽん太は思います。

公演情報

ル・グラン・ガラ2023 Bプロ

2023年8月2日
東京文化会館

チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』
振付:ジョージ・バランシン 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
レオノール・ボラック トマ・ドキール

『マノン』より“出会いのパ・ド・ドゥ”
振付:ケネス・マクミラン 音楽:ジュール・マスネ
ドロテ・ジルベール  ユーゴ・マルシャン

『マノン』より“寝室のパ・ド・ドゥ” 
振付:ケネス・マクミラン 音楽:ジュール・マスネ
リュドミラ・パリエロ  フリーデマン・フォーゲル

『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』
振付:ウィリアム・フォーサイス  音楽:トム・ウィレムス
ビアンカ・スクダモア  オードリック・ベザール 

『オネーギン』
振付:ジョン・クランコ  音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
アマンディーヌ・アルビッソン  マチュー・ガニオ

『パリの炎』
振付:ヴァシリー・ワイノーネン 音楽:ボリス・アサフィエフ
クララ・ムーセーニュ  ニコラ・ディ・ヴィコ 

『コンチェルト』
振付:ケネス・マクミラン 音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィチ
ビアンカ・スクダモア トマ・ドキール

『ヴィヴァルディ・パ・ド・ドゥ』
振付:ジル・イゾアール  音楽:アントニオ・ヴィヴァルディ
リュドミラ・パリエロ  マチュー・ガニオ 

『悪夢』
振付:マルコ・ゲッケ  音楽:キース・ジャレットレディ・ガガ
レオノール・ボラック  フリーデマン・フォーゲル 

『椿姫』
振付:ジョン・ノイマイヤー  音楽:フレデリック・ショパン
アマンディーヌ・アルビッソン  オードリック・ベザール

うたかたの恋 マイヤーリング』
振付:ケネス・マクミラン  音楽:フランツ・リスト
ドロテ・ジルベール  ユーゴ・マルシャン 

日本人ハーフのクララ・ムーセーニュは愛らしくて実力もある〈ル・グラン・ガラ2023〉Aプロ

 パリ・オペラ座バレエ団のトップスターを招いた〈ル・グラン・ガラ〉。4年ぶりの公演です。

 日程の都合から、8月2日にマチネでAプロ、ソワレでBプロと、ダブルヘッダーで観たのですが、もう絶対やめた。疲れがたまってぼーっとしてくるし、あいだの時間をつぶすのも面倒だし。全幕もの二つならまだいいかもしれないけど、ガラ公演を2回だと、どれがどれだか頭の中がごっちゃになってしました。

 ということで、こんかいは印象に残った点だけを書きたいと思います。

日本人ハーフのクララ・ムーセーニュが溌剌として可愛い

 『ドン・キホーテ』のキトリを踊ったクララ・ムーセーニュ。なんかニコニコしていて、日本人の子供体型。双眼鏡で顔を見ても日本人みたいです。でもフランスの名前だし……。

 帰ってから確認すると、お母さんが日本人、お父さんがフランス人のハーフみたいですね。次々と最年少で昇進を重ねているそうで、バレエ界の藤井聡太か? 現在は19歳でスジェのようです。

 元気一杯、溌剌としてキュートな踊り。テクニックもあるようです。ドゥブルを入れたグランフェッテの時だけ表情が真剣だったのが、また可愛いかったです。

 今度はしっとりした踊りも観てみたいです。今後が楽しみですね。

優美なボラック、ガニオの『ソナタ』 

 哀愁に満ちたラフマニノフチェロソナタ(Op.19)の生演奏に乗せて、ポラックとガニオが踊りました。しっとりとして優雅でとても美しいです。コロナを経て久々にパリ・オペラ座を観れた喜びを感じました。

フォーゲルって女性扱いが荒くない?

 アルビッソンがフォーゲルと『オネーギン』の鏡のパ・ド・ドゥ。アルビッソンの感情表現が素晴らしい。フォーゲルは、なんかパリ・オペラ座と違ってしっとり感がありませんでした。劇中のオネーギンの性格とちょっと違う感じもしますが、タチアーナの幻想の中の姿だからこれでいいのか? ってか、フォーゲルって女性扱いが荒くないですか。腕力が強いせいのか、支えたりリフトしたりするとき、ぶんぶん振り回しているように見えるのですが、そう感じるのはぽん太だけでしょうか?

ジルベールとマルシャンの繊細な『ル・バルク』

 ベテランのジルベールだからこその、全身の隅々にまで常に神経が行き届いた繊細な踊りを堪能できました。

アルビッソンの『白鳥の湖』グランアダージョ

 この場面って、白鳥が人間の姿に戻って王子と踊る設定だと思うのですが、人間でもあり白鳥でもあるように感じました。べザールが後ろからアルビッソンの両腕を持ち上げる時、羽を持って広げているように見えました。何度も白鳥を捉えようとするが、手から逃れてしまう。男性に支えられて両手両足を広げて繰り返しジャンプするところも、羽ばたいて空に舞い上がったように思えました。

 ぽん太も暑さと疲れでだんだん眠くなってきたので、幻影を見たのかもしれません。

終演後ソワレまでの間に神田きくかわで鰻をいただく

 冒頭で書いたように、本日はマチネ・ソワレのダブルヘッダーだったので、終演後神田きくかわに鰻を食べに行きました。有名店と聞きますが、時間が午後4時だったせいかすいてました。ふっくらとして、ちょっと泥臭くて、レンゲの蜂蜜を使ったタレもしつこくなく、美味しかったです。

公演情報

ル・グラン・ガラ2023 Aプロ

2023年8月2日
東京文化会館

『海賊』
振付:マリウス・プティパ 音楽:アドルフ・アダン

ビアンカ・スクダモア トマ・ドキール

ソナタ
振付:ウヴェ・ショルツ 音楽:セルゲイ・ラフマニノフ

レオノール・ボラック マチュー・ガニオ
ピアノ:久山亮子 チェロ:水野優也

『オネーギン』より“鏡のパ・ド・ドゥ”
振付:ジョン・クランコ 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

アマンディーヌ・アルビッソン フリーデマン・フォーゲル

カルメン
振付:ローラン・プティ 音楽:ジョルジュ・ビゼー

リュドミラ・パリエロ オードリック・ベザール

『ル・パルク』
振付:アンジュラン・プレルジョカージュ 音楽:ウォルフガング・アマデウスモーツァルト

ドロテ・ジルベール ユーゴ・マルシャン

ドン・キホーテ
振付:マリウス・プティパ 音楽:レオン・ミンクス

クララ・ムーセーニュ ニコラ・ディ・ヴィコ

白鳥の湖』より第 2 幕  
振付:マリウス・プティパ 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

アマンディーヌ・アルビッソン オードリック・ベザール

『3つのグノシエンヌ』
振付:ハンス・ファン・マーネン 音楽:エリック・サティ

レオノール・ボラック フリーデマン・フォーゲル
ピアノ:久山亮子

ヴェニスの謝肉祭』
振付:マリウス・プティパ 音楽:チェーザレ・プーニ
ビアンカ・スクダモア トマ・ドキール

『ジュエルズ』より“ダイヤモンド”
 振付:ジョージ・バランシン 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

リュドミラ・パリエロ マチュー・ガニオ

『赤と黑』より寝室のパ・ド・ドゥ  〜ラコットへのオマージュ〜
振付:ピエール・ラコット 音楽:ジュール・マスネ

ドロテ・ジルベール ユーゴ・マルシャン

ヌレエフの「くるみ割り」振付は罰ゲームですか?〈オペラ座ガラ〉-ヌレエフに捧ぐ-Bプロ

 〈オペラ座ガラ〉-ヌレエフに捧ぐ-、今回はBプロです。

 Bプロはヌレエフ振付が少なめに感じますが、なにやら「さすらう若人の歌」はヌレエフが最後の舞台で踊った演目らしく、他の演目もそれぞれヌレエフとゆかりがあるのかもしれませんが、ぽん太にはよくわかりません。プログラム買ったら書いてあったのかしら?

 このブログは、バレエ好きタヌキ爺ぽん太の勝手な感想です。

ポール・マルクの足さばき、可憐なパク・セウン「ゼンツァーノの花祭り

 Aプロでも正確で安定した踊りを見せてくれたポール・マルクが、素晴らしい足さばきを披露してくれました。またパク・セウンも先日のAプロが嘘のように、可憐で柔らかい踊りを見せてくれました。

オニール八菜、ルーヴェの華やかなパ・ド・ドゥ「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」

 オニール八菜もAプロとは異なり、優雅で堂々とした踊り。Aプロの時はパク・セウンもオニール八菜も初日で緊張してたのか? それとも観ているぽん太の方が暑さのせいでおかしかったのでしょうか?

 王子様キャラのルーヴェと夢のような優雅な時間を作ってくれました。

エロチックさが足らん「さすらう若者の歌」

 マルク・モローとントワーヌ・キルシェールの「さすらう若者の歌」は、コンテンポラリーとしての動きはしっかり踊ってましたが、「心」が伝わってきませんでした。

 「さすらう若者の歌」の音楽は、はオーストラリアの作曲家グスタフ・マーラーによる同名の歌曲です。内容はマーラー自身の失恋体験が反映されていて、失恋した若者が旅の途中で時には自然の美しさに心を奪われながらも、恋する人を失った悲しみから逃れることはできず、最後は菩提樹の木の下に横たわり、白い花びらが降り注ぐ中で安らぎを得るという話です。ラストで若者が生きているのか死んでしまったのか、はっきりとは描かれていませんが、ぽん太は死んでしまった派です。さすらう若者の歌 - Wikipediaに対訳がありますので、ご覧になるとバレエの理解が増すことでしょう。

 青いコスチュームのダンサーは旅する若者その人であり、年上のエンジのコスチュームのダンサーは誰だかわかりませんが、彼に寄り添って励まし、慰め、時には糾弾し、時には恋人となります。

 やはりここには同性愛的なニュアンスがあるはずで、今回の舞台は「先生と生徒」みたいに見えてしまいました。

 ヌレエフ自身が踊った「さすらう若者の歌」(リハーサルとインタビュー、一部踊ってるところ)の動画が見つかりましたので、お裾分けでリンクしておきます。

これって罰ゲームですか?「くるみ割り人形」より第2幕のグラン・パ・ド・ドゥ

 ヌレエフ振り付けの「くるみ割り人形」。ヌレエフの振付は難しいと聞きますが、なんか修行というか、罰ゲームみたい。難しいのに見た目の効果があんまりないところが凄いです。専門用語がわからないのうまく表現できませんが、なんでここで逆回りなんかい?、シェネの途中でこんな動作を挟むの?といった感じ。途中三連符に合わせての小刻みなパも、けいれんしているみたいでした。

 ラストの決めポーズは何かなと思って観ていたら、片足立ちで「イ」の字型の男性の上に、女性が乗っかるというもの。さすがのポール・マルクも、ぷるぷる振るえてました。

跳ばないエイマン「ライモンダ」

 最後の演目は、Aプロと同じ「ライモンダ」より第3幕のグラン・パ 。主役のキャストが変わってます。

 エイマンがどのような身体パフォーマンスを見せてくれるのか楽しみにしていたのですが、あれれ、なんかジャンプが低くて体のキレがありません。4年のあいだに何があったんでしょう。またどこか故障したのでしょうか。

 でも、ルグリの後継者ともいうべき表現力に、今後も磨きをかけていってほしいです。

基本情報

オペラ座ガラ〉-ヌレエフに捧ぐ-

2023年7月30日
東京文化会館

「ゼンツァーノの花祭り
振付:オーギュスト・ブルノンヴィル
音楽:エドヴァルド・ヘルステッド パク・セウン、ポール・マルク

ナポリ」より第3幕のパ・ド・シス
振付:オーギュスト・ブルノンヴィル
音楽:エドヴァルド・ヘルステッド、ホルガー ・シモン・パウリ、ニルス・ウィルヘルム・ゲーゼ、ハンス・クリスチャン・ロンビ
ブルーエン・バティストーニ、イダ・ヴィキンコスキ、クレマンス・グロス、オーバーヌ・フィルベール、 ダニエル・ストークス、アントニオ・コンフォルティ

チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」
振付:ジョージ・バランシン 
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
オニール八菜、ジェルマン・ルーヴェ

「さすらう若者の歌」
振付:モーリス・ベジャール
音楽:グスタフ・マーラー

マルク・モロー、アントワーヌ・キルシェール

「コム・オン・エスピール」
振付:ユージン・ポリャコフ
音楽:ジョン・フィールド
オニール八菜、マチアス・エイマン

くるみ割り人形」より 第2幕のグラン・パ・ド・ドゥ
振付:ルドルフ・ヌレエフマリウス・プティパ、レフ・イワーノフに基づく)
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
ブレーエン・バティストーニ、ポール・マルク

「ライモンダ」より第3幕のグラン・パ
振付:ルドルフ・ヌレエフマリウス・プティパに基づく)
音楽:アレクサンドル・グラズノフ
オニール八菜、マチアス・エイマン
ブルーエン・バティストーニ、イダ・ヴィキンコスキ、クレマンス・グロス、オーバーヌ・フィルベール、
アントワーヌ・キルシェール、ダニエル・ストークス、アクセル・イボ、アントニオ・コンフォルティ

エイマンの変化に驚く〈オペラ座ガラ〉-ヌレエフに捧ぐ-Aプロ

 ヌレエフの没後30年を記念した〈オペラ座ガラ〉-ヌレエフに捧ぐ-のAプロを観てきました。このブログはバレエ好きタヌキ爺ぽん太の個人的感想です。

ヌレエフと踊ったことがあるフロランス・クレールが指導

 年くってからバレエファンになったぽん太は、残念ながら生前のヌレエフとの接点はなく、彼がパリ・オペラ座の芸術監督をしていた頃の公演を見たこともなければ、ましてや生で踊る姿を見たこともありません。Youtubeで見返してますが、ジャンプやピルエットのテクニックもさることながら、オーラというか、男から見ても色気を感じる独特の美しさがあるように思えます。

 今回のガラは、ヌレエフと踊ったこともあるというフロランス・クレールの指導のもと、パリ・オペラ座のエトワルから若手まで、14人によるステージ。カテコで舞台に現れた彼女は、盛大な拍手を受けておりました。

 彼女のインタビュー記事を下にリンクしておきます。

www.nbs.or.jp

 新国立の中劇場ぐらいのハコでやったらもっと雰囲気が出た気もしますが、採算上しかたがないか。

エイマンの「ダンス組曲」が傑出!ルグリの後継者か?

 そのヌレエフの振り付けではないんですが、エイマンの踊った「ダンス組曲」が群を抜いて素晴らしかったです。これ観ただけで今日来たかいがあったというもの。

 エイマンというとぽん太の印象では、目がクリクリして可愛らしい身体能力抜群のダンサーというイメージでしたが、ちょっと痩せて、渋くて深みのある大人の顔になってました。そして踊りもとっても表現力豊かで、さまざまなニュアンスが一つひとつの動きに宿り、言葉のように語りかけてくるのでした。

 まるでルグリみたい。エイマンが彼の踊りを引き継ぐとは思ってもみませんでした。赤のジャージも、ルグリと同様に似合ってました😀。

 舞台上の女性が弾くチェロに合わせて踊るのですが、単なる伴奏ではなく、まるでチェリストとのパ・ド・ドゥのような雰囲気。エイマンは時には彼女に微笑みかけ、アイコンタクトをとりながら彼女をリードしたり、彼女に合わせたりします。

 何か別格の素晴らしいもの(野球で言えば大谷翔平、将棋でいえば藤井聡太のような)を観た思いで、ぽん太はとっても感動しました。

 コロナの4年のあいだに、みんな成長してたんだね。ぽん太は衰えただけだけど。

 それから、ルグリの「スーパー・バレエレッスン」で伝説のお⚪︎ぱい鷲づかみ事件を起こしたアクセル・イボくんに久々にお目にかかりました。う〜ん「スジェ」か。エトワル目指して頑張れ!

すっきりと安定したポール・マルク、優雅なジェルマン・ルーヴェ

 男性ダンサーでは、ぽん太は「ライモンダ」を踊ったポール・マルクが気に入りました。たぶん観るのは初めてだと思います。動きに無駄がなく正確で、ジャンプも大きくピルエットも安定してます。頑張ってる感じがありません。表現力はどうなのかな? こんど全幕で観てみたいです。

 踊りもルックスも王子様そのもののジェルマン・ルーヴェが「眠れる森の美女」の第3幕のパ・ド・ドゥを踊りました。

オニール八菜とパク・セウンはちょっと緊張?

 対して女性陣は、ぽん太はちょっと満足できませんでした。オニール八菜の黒鳥は、テンポがちょっと遅めなこともあり、なんか元気というか張りがない感じで、黒鳥の妖艶さもいまいちでした。

 また初めて観たパク・セウンも、動きが硬くて手足だけ動かしてる感じでした。美人でスタイルもよく、背も高くて花もあり、お姫様に最適に思えるので、今後に期待。

基本情報

オペラ座ガラ〉-ヌレエフに捧ぐ- Aプロ

2023年7月26日
東京文化会館

「眠れる森の美女」より"花のワルツ"
振付:フロランス・クレール
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
オニール八菜、マルク・モロー
イダ・ヴィキンコスキ、クレマンス・グロス、オーバーヌ・フィルベール、 アクセル・イボ、ダニエル・ストークス、アントニオ・コンフォルティ

「眠れる森の美女」より第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ルドルフ・ヌレエフマリウス・プティパに基づく)
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
パク・セウン、ジェルマン・ルーヴェ

「オーニス」
振付:ジャック・ガルニエ
音楽:モーリス・パシェ
アントワーヌ・キルシェール、ダニエル・ストークス、アクセル・イボ

「ダンス組曲
振付:ジェローム・ロビンズ
音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ
マチアス・エイマン
チェロ:福﨑茉莉子

白鳥の湖」より第3幕のパ・ド・トロワ
振付:ルドルフ・ヌレエフマリウス・プティパ、レフ・イワーノフに基づく)
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
オニール八菜、マルク・モロー、アントニオ・コンフォルティ

「ライモンダ」より第3幕のグラン・パ
振付:ルドルフ・ヌレエフマリウス・プティパに基づく)
音楽:アレクサンドル・グラズノフ
パク・セウン、ポール・マルク
イダ・ヴィキンコスキ、クレマンス・グロス、オーバーヌ・フィルベール、ブルーエン・バティストーニ、
アントワーヌ・キルシェール、アクセル・イボ、ダニエル・ストークス、アントニオ・コンフォルティ