ぽん太のよりみち精神科

たんたんたぬきの精神科医ぽん太のブログです。ココログの「ぽん太のみちくさ精神科」から引っ越してまいりました。以後お見知り置きをお願いいたします。

文楽「菅原伝授手習鑑」ついに通し上演の大団円 国立劇場2023年9月第2部

 8・9月の国立劇場文楽は、「菅原伝授手習鑑」の通し上演の後半。

 どれを観ようかな? 高潔温厚な菅丞相が激おこして雷神に変ずるという4段目「天拝山」も興味深いですが、やはり「寺子屋」がある第2部にしました。

 で、「寺子屋」……。感動で涙が止まりませんでした。文楽の方が歌舞伎よりも没入できますね。

 このブログは単なる文楽好きのぽん太の個人的感想です。

寿式三番叟

 歌舞伎でもお馴染み。天下泰平と五穀豊穣を祈るおめでたい舞いです。

 来月(2023年10月)末をもって国立劇場は閉場となり、2029年秋の再開を待つことになります。だいぶ先ですね〜。その間はどうするんでしょ。国立劇場の今後の発展を願って選ばれた演目だそうです。

 ずらりと並んだ太夫さんと三味線が、祝祭の雰囲気を盛り上げます。

 爽やかな千歳の舞いに続いて、天下泰平を祈る翁の荘重な舞い。そして最後は二人の三番叟が、激しく床を踏み鳴らしながら五穀豊穣を祈ります。

 歌舞伎の三番叟も迫力がありますが、文楽の場合は人間では絶対にありえない動きもあり、一層の激しさです。普段は目立たない足遣いさんたちが大活躍で、頭巾の下は汗だくになってたんじゃないでしょうか?

菅原伝授手習鑑

北嵯峨の段

 休憩を挟み、一転してシリアスなドラマです。

 最初の「北嵯峨の段」は、菅丞相の奥さん(御台所)が身を隠している北嵯峨の侘び住まいに追っ手が迫ります。桜丸の妻の八重は奮闘虚しく討ち死に。御台所は間一髪のところを謎の山伏に助けられます。

 実はこの山伏は松王丸で、「寺子屋の段」で松王丸が御台所を連れてくる伏線になってます。

 1772年(昭和47年)以来51年ぶりの上演という珍しい段だそうです。

寺入りの段/寺子屋の段

 普段歌舞伎を観る機会が多いぽん太は、ついつい歌舞伎と比較しながら観てしまいましたが、生身の人間よりも人形の方が感情移入しやすいのか、とっても感動いたしました。

 歌舞伎だと、役者が名台詞をどのように言うかとか、芝居の型をどう演ずるかに注意が行ってしまうのですが、文楽だと純粋にストーリーに没入できる気がします。

 源蔵と戸波が「鬼になって」と、菅秀才の身代わりに小太郎をことによっては母親もろとも殺そうと決意をするところなど、鬼気迫るものがありました。

 松王丸と千代が嘆く場面では、歌舞伎では松王丸は悲しみを隠して気丈に振る舞い、桜丸にかこつけて「源蔵殿、御免くだされ」と大泣きしますが、文楽ではこのセリフは無く、その前から松王丸は扇子を思わず落としたり、懐紙で目頭を押さえたりと、悲しみを表に出しておりました。

 菅秀才が「我に代わると知るならば、この悲しみはさすまいに。不憫ふびんなものや。」と同情を寄せて涙をぬぐう場面に関しては、文楽人形よりも歌舞伎の子役の独特の台詞まわしの方が、菅秀才の高貴さが感じられるように思いました。

 ラストの名曲「いろは送り」は、文楽だと字幕を見ながら聴けるので、詞章をよく理解することができました。清治の三味線にのせ呂勢太夫が切々と語ってくれました。

 人形では簑二郎の千代が素晴らしかったです。松王丸は玉助、源蔵と千代は玉也と簑二郎。

五段目「大内天変の段」

 この段も「北嵯峨の段」と同じく51年ぶりの上演だそうです。藤原時平のいる宮中に雷が落ち、側近が次々と死んでいきます。ついで現れた桜丸と妻・八重の亡霊によって時平は追い詰められ、苅屋姫と菅秀才によってトドメをさされます。そして斎世親王と菅原家は復権を果たし、菅丞相は「南無天満大自在天神」として北野天満宮に祀られることになります。

 菅原道真天神信仰に関しては、以前の記事で少し触れたことがあります。

 道真が903年に死去してから、天皇の子息や朝廷の要人が次々と亡くなり、道真の怨霊のせいだという噂が広がりました。藤原時平(ふじわらのしへい)のモデルとなった藤原時平(ふじわらのときひら)は、909年に病死。また930年には宮中の清涼殿に落雷があり、多くの公卿が亡くなり、その惨状のショックから醍醐天皇まで3ヶ月後に崩御するなどして、道真が雷神となって雷を落としたと考えられるようになりました。道真が「天満大自在天神」として北野天満宮に祀られたのは947年でのことです。文楽ではこれらの事件をひとつにまとめているようですね。

 こうしてみると、やっぱり第1部の「天拝山の段」も観ておきたかったな〜。菅丞相が雷神に返信する話で、菅丞相と牛の関わりも出てくるそうです。

公演情報

文楽

国立劇場
2023年8・9月

第二部

寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)

 翁 咲太夫
  千歳  呂太夫 
  三番叟 錣太夫 
  三番叟 千歳太夫 
      咲寿太夫 
      聖太夫
      文字栄太夫
      燕三
      藤蔵
      勝平
      清志郎
      錦吾
      燕二郎
      清方

  千歳  紋臣
  翁   勘十郎
  三番叟 玉勢
  三番叟 簑紫郎

通し狂言 菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)

四段目
 北嵯峨の段
   希太夫  團吾
 寺入りの段
   亘太夫 友之助
 寺子屋の段
  切 呂太夫 清介
  後 呂勢太夫 清治

五段目
 大内天変の段    
  小住太夫 寛太郎

人形役割
  松王丸 玉助
  女房春 清五郎
  女房八重 一輔
  御台所 文昇
  星坂源吾 玉路
  菅秀才 簑悠
  よだれくり 勘介
  女房戸波 勘壽
  女房千代 簑二郎
  小太郎 清之助
  下男三助 玉峻
  武部源蔵 玉也
  春藤玄蕃 文司
  法性坊阿闍梨 簑一郎
  斎世親王 玉翔
  苅屋姫 玉誉
  左大臣時平 玉志
  三善清貫 和馬
  桜丸 勘彌
  捕手・寺子・百姓 大ぜい