ぽん太のよりみち精神科

たんたんたぬきの精神科医ぽん太のブログです。ココログの「ぽん太のみちくさ精神科」から引っ越してまいりました。最近はオペラやバレエの感想や、温泉のご紹介が多いです。以後よろしくお願いします。

「オネーギン」シュツットガルト・バレエ団2024/11/3

 「オネーギン」と「椿姫」の二大演目をひっさげて、シュツットガルトバレエ団が6年ぶりに来日しました。今回はまず「オネーギン」を鑑賞しました。

 当初オネーギン役とタチアーナ役はジェイソン・レイリーとアンナ・オサチェンコがキャスティングされていましたが、オサチェンコが急病で来日できず、さらに当日、レイリーの休演が発表されました。結果としてオネーギンとタチアーナは看板ペアであるフォーゲルとバデネスが踊ることになり、これはこれで大変楽しみでしたが、レイリーとオサチェンコの踊りも観たかったです。

 

 フォーゲルももう45歳ですが、体力が衰えるどころか、以前より顔がほっそりして、渋みが出てきたように思います。そして何より表現力が圧巻でした。

 第1幕の「鏡のパ・ド・ドゥ」では、少女タチアーナの恋心が理想化したオネーギンで、自分を優しく暖かく包み込んでくれて、新たな世界へ導いてくれる年上の男性でした。また第2幕の舞踏会でレンスキーをからかうためにオリガと踊るシーンでは、レンスキーが「俺と踊る時とは全然違うじゃないか」と嫉妬するのも無理のない、ピッタリと揃った完璧なダンスでした。ダンスの後半では戯れるような振る舞いになり、時に「これは本気じゃないよ」と言わんばかりの雑な扱いも。

 決闘シーンは、オネーギンが本気でレンスキーを殺すつもりだったかどうかは、オペラ版では解釈が分かれるところですが、今回のバレエでは、オネーギンは決闘をやめたかったけりど、レンスキーの怒りが収まらず、最終的にはオネーギンはレンスキーめがけてピストルの引き金を引いてしまいます。撃った後に号泣する演技は心に沁みました。

 第3幕の手紙のパ・ド・ドゥでは、成長して侯爵夫人なったタチアーナに、おそらくは生まれて初めての恋の炎に突き動かされたオネーギンが、若き日々の過ちの後悔にさいなまれながら、苦しみの表情で愛を告白します。一方バデネスのタチアーナは、オネーギンの胸に飛び込みたいと思いながらも、公爵夫人という自分の立場、少女時代に受けた心の傷、そして「何であの時ではなく今なの」という複雑な感情が見事に表現されていました。

 ぽん太はバレエのテクニックのことはわかりませんが、こうした繊細な感情が、バレエの動きの中に表現されていることに感動しました。

 手紙のパ・ド・ドゥはガラ公演では定番の演目ですが、やっぱり全幕で見ると違いますね〜。踊っている方も気持ちの乗り方が違うんじゃないでしょうか。

 ただ、前にも書いたことがありますが、タチアーナが最後にオネーギンの手紙を破るというクランコの演出はぽん太は好きでありません。少女の淡い恋心を踏みにじったオネーギンの傍若無人な振る舞いを逆の立場でやり返すのではなく、成熟した女性として毅然な態度で彼の求愛を拒絶してほしかったです。

 

 オリガ役のイオネスクは、タチアーナとは対照的に外交的でちょっと軽率なキャラを見事に踊りました。レンスキー役のダ・シルヴァも端正で美しい踊りでしたが、ややがっしり体型なのが少し残念でした。

 ヴォルフガング・ハインツの力のこもった指揮に、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団もしっかりと応えておりました。

 

 バレエ『オネーギン』は、クランコの振付で1965年にシュツットガルト・バレ団によって初演されました。音楽はクルト=ハインツ・シュトルツェが担当。クランコの『じゃじゃ馬ならし』の音楽も彼ですね。『オネーギン』では、チャイコフキーのオペラ『エフゲニー・オネーギン』の楽曲を全く使わず、チャイコフスキーのあまり知られていないピアノ曲などを大幅に編曲しながらも、チャイコフスキー風の響きを残すという職人技を見せています。

 クランコ(1927 - 1973)は南アフリカ出身で、イギリスのサドラーズ・ウエルズ・バレエ団(現バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)などで踊りながら振付を発表。1960年にシュツットガルト・バレエ団に移籍し、『オネーギン』など数々の名作を生み出しました。晩年には飲酒量が増え、1973年に飛行機内で睡眠薬を服用したところ嘔吐して窒息し、45年間の生涯を閉じました。

 

 シュツットガルト・バレエ団の公演、次の『椿姫』も楽しみです!

公演情報

「オネーギン』

2024年11月3日
東京文化会館大ホール
公式サイト: https://www.nbs.or.jp/stages/2024/stuttgart/onegin.html

振付・演出:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
編曲:クルト=ハインツ・シュトルツェ
装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ

オネーギン:フリーデマン・フォーゲル
レンスキー(オネーギンの友人):アドナイ・ソアレス・ダ・シルヴァ
ラーリナ夫人(未亡人):ソニア・サンティアゴ
タチヤーナ(ラーリナ夫人の娘):エリサ・バデネス
オリガ(ラーリナ夫人の娘):ディアナ・イオネスク
彼女たちの乳母:マグダレナ・ジンギレフスカ
グレーミン公爵(ラーリナ家の友人):ファビオ・アドリシオ

近所の人々、ラーリナ夫人の親戚たち、 サンクトペテルブルクのグレーミン公爵の客人たち:シュツットガルト・バレエ団

指揮:ヴォルフガング・ハインツ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
協力:東京バレエ学校