今回カテコは撮影可。盗撮ではありません。
コンヴィチュニー演出の二期会オペラ『影のない女』を観てきました。
世紀の鬼才ももう喜寿とのことですが、独創的で刺激的な演出は健在でした。恒例となった大ブーイングや、早々に席を立つ観客もおり、今回もスキャンダラスな舞台が展開されました。しかし日曜の公演にもかかわらず空席が目立っていたのが残念です。
今回の演目はリヒャルト・シュトラウスの『影のない女』。ぽん太は2010年に新国立劇場で一度観たきりで、ほとんど内容を忘れてしまってます。なのでコンヴィチュニーがどのように解釈し演出したのか正確には比較できませんが、舞台を見ての印象をお伝えしたいともいます。
コンヴィチュニーは皇帝はをマフィアのボスとして描き、舞台は地下駐車場で、何やら物騒な取引が行われております。銃声が何発か鳴り響いたところで、おもむろに序曲が始まります。またバラクは遺伝子操作研究所の所長で、研究室には胎児のサンプルが陳列され、「影=子供を産む能力」というテーマが露骨に演出され、エロチックで生々しい場面が繰り広げられます。
もともとリヒャルト・シュトラウスは、このテーマをオブラートに包んで「影」と言い換えることでメルヘンチックな物語を作りました。しかしコンヴィチュニーは、それをあえて剥き出しにして幻想的な要素を排した演出を行いました。コンヴィチュにーらしい大胆な解釈かもしれませんが、ぽん太は品のない表現と感じられました。
原作のラストでは、皇帝と皇后、バラク夫妻の希望に満ちた四重唱が、これからまれてくる子供達の未来を祝福します。しかし今回の演出では第2幕のラストが結末に使用され、物語は混乱とともに幕を閉じます。また舞台の途中で、生まれてきた子供が「どうか死なせて」と正反対のことを日本語で叫ぶ場面もショッキングでした。
ラストの四重唱をカットしてあえて異なる幕切れを持ってくるなどといった改変は、オペラ演出としては掟破りですが、ぽん太としては、誰も彼もこれをやり始めたら困りますがが、コンヴィチュニーであれば許される気がしました。グレン・グールドの楽譜を無視した速度設定のピアノ演奏が、彼だからこそ成り立つような特別な存在感があるのと同じです。
全体として現代的な不安感を生々しく表現していましたが、そこに新たな視点や強いメッセージが込められているわけではなく、少し物足りなさも残りました。破壊するだけではなく、何か美的な創造が感じられたらもっとよかったかもしれません。
皇后が自分たちの所業に罪悪感を感じ、幕を引いて強引に舞台を閉じようとする場面など、部分ぶぶんでは印象に残るシーンがありましたが、全体として感動にまでは至らなかったのは事実です。二期会の公演ということもあり、歌手の力不足も影響したかもしれません。
アレホ・ペレス指揮の東京交響楽団は迫力ある演奏を聞かせてくれました。時々目を閉じて舞台上のエログロを消し去って耳をそばだてると、リヒャルト・シュトラウスのとても美しい音楽が聴こえてきて癒されました。
またコンビチュニー演出のオペラが国内で上演される際は、怖いもの見たさで観に行きたいと思っています。
『影のない女』
〈ワールドプレミエ〉
東京文化会館大ホール
2024年10月27日
公式サイト:影のない女|東京二期会オペラ劇場 -東京二期会ホームページ-
台本:フーゴ・フォン・ホフマンスタール
作曲:リヒャルト・シュトラウス
指揮:アレホ・ペレス
演出:ペーター・コンヴィチュニー
皇帝:樋口達哉
皇后:渡邊仁美
乳母:橋爪ゆか
伝令使:友清 崇 髙田智士 宮城島康
若い男の声:下村将太
鷹の声:種谷典子
バラク:河野鉄平
バラクの妻:田崎尚美
バラクの兄弟:岸浪愛学 的場正剛 狩野賢