2022年11月上旬、ぽん太とにゃん子は渋温泉の金具屋に泊まりました。なんと約20年ぶりです。
映画『千と千尋の神隠し』のモデルの一つとも言われる木造4階建ての歴史ある建物。一部は登録有形文化財に指定されております。温泉も4つの自家源泉を持ち、浴場は8つもあり、すべて源泉掛け流しです。しかも旅館全体のお湯の蛇口から出てくるのは源泉です。これは蛇口からみかんジュースが出てくるという愛媛県状態や。もちろんお食事も美味しくて、皆様にぜひお勧めしたい名旅館です。
ただ金具屋の情報はすでにいっぱいネットにアップされているので、このブログでは温泉や料理には目もくれず、建物に込められた宮大工の遊び心、ぽん太が前回泊まった時ににゃん子がテレマークスキーで膝を痛めて整形外科を探し回った昔話、帰りに立ち寄りたいワイナリーなど、スキマ情報をお届けします。
宮大工の遊び心満載の建物
登録有形文化財に指定された昭和4年築の斉月楼と大広間
1929年(昭和4年)に作られた木造4階建ての客室棟「斉月楼」と、最上部にある「大広間」が登録有形文化財に指定されております。「文化遺産オンライン」の紹介ページはこちらです(金具屋旅館斉月楼 文化遺産オンライン、金具屋旅館大広間 文化遺産オンライン)。
昭和2年に信州中野 - 湯田中駅間の鉄道が開通。当時の館主は都会から観光客が訪れることを見越して、これまでの療養宿から観光旅館への生まれ変わりを決断。建築のために集められたのは、周辺の宮大工たち。館主は宮大工とともに日本の観光地を訪ねてまわり、絢爛豪華な高級旅館の建設を決意。神社仏閣を専門とする宮大工ですが、金具屋では遊び心をふんだんに発揮し、温泉旅館らしい楽しくて華やかな建物を造り上げました。
こちらが金具屋の館内図。斉月楼に合体するようにして、右手前に玄関棟の神明の館、奥にエレベーターのある居人荘が増築されました。
大広間は、エレベーターで最上階まで行ってさらに階段を登ったところにあり、建物の最上階にあるように思えますが、実は宿の裏手の崖の上に建っています。
こちらが外観です。
奥まった高いところにあるので、温泉街から外観を見ることはできません。横湯川の対岸の高台まで行くと、赤い屋根の建物を見ることができます。
金具屋では夕食前の17:30から館内ツアーが行われます(所要時間35分、無料、チェックイン時に要予約)。スタート地点はこの大広間。泊まっただけではわからない建物の歴史や見どころを、若旦那が丁寧にわかりやすく解説してくれます。今回のぽん太のブログはその時にお伺いした話も交えてお伝えしております。金具屋の建物に興味を持った方は、ぜひ参加をお勧めいたします。
天井は折上格天井(おりあげごうてんじょう)。梁から曲線的に一段高くなったところに天井を設け、格子で支えられています。神社の本堂や大名の書院などで用いられる格式ある形式です。130畳という広さですが、芝居小屋としても使われたため、内部に邪魔になる柱が一本もない巨大空間となっております。
木造でどうやってこのような大空間が作れたのかというと、富岡製糸場でも用いられているトラス構造(繰糸所のトラス | しるくるとみおか 富岡市観光ホームページ)が屋根裏に組み込まれているんだそうです。日本の伝統建築と西洋技術を組み合わせて造られているんですね。
格子の間にさらに井桁が入っているのは、一見凝ったデザインに見えますが、実はこれは当初のものではありません。1945年の大雪で大広間の屋根が倒壊。1950年に復元したものの、戦後の状況では、天井に貼る当初のような大きな一枚板が手に入らず、一区画に数枚の板を使ったため、それを隠すために追加したんだそうです。
舞台になっているところは雪で潰れなかったため、天井は井桁はなく、当初の大きな一枚板が残っております。
こちらがぽん太とにゃん子が今回泊まった「相生の寮」という客室。屋根のような軒(のき)や、窓の上の庇(ひさし)がついていて、一つの客室が一軒の家のようなしつらえになっています。作りも細かいですね。
窓には傘をかたどった装飾。庇の上にはアワビの殻が並んでいます。屋根が飛ばないように石を並べた石置屋根(石置屋根(いしおきやね)ってなに? | 街の屋根やさん鹿児島店
)を模したのですね。石ではなくアワビということは、海沿いの家のイメージでしょうか。
館内ツアーで聞いのか自分で考えたのか、ボケ始めてきたぽん太はよく覚えてないのですが、この部屋の名前の「相生」(あいおい)といえば、2本の木が寄り添ってはえている相生の松が思い浮かびます。相生は相老にも通じるため、夫婦和合、長寿の象徴とされています。まさにぽん太とにゃん子。旅館の部屋の名前にふさわしいですね。
相生の松を題材にした能の『高砂』は、「高砂やこの浦舟に帆を上げて……」で有名です。この松が生えているのは兵庫県高砂市の高砂神社で、海沿いに位置してます(こちら(高砂神社-[相生松と尉と姥])が高砂神社の公式サイトですが、長らく更新していないせいか、広告が出まくっています)。こうしたつながりから、「相生の寮」という部屋のデザインに海の要素が取り入れられているのでしょう。
ついでに部屋の内部の所員の写真をどうぞ。超複雑、凝りに凝った意匠をご覧ください。
各部屋を一軒の家になぞらえるとすると、廊下は屋外ということになります。ということで廊下からは日本一の富士の山を眺めることができます。丸い灯りはもちろん月。窓の桟には、霞や雲を表す横方向の桟が組み込まれています。
富士山といえば富士五湖。湖には氷が張っているようです。
このように、上に富士山、下に湖となってます。
階段の柱などには、水車の部品が使われています。
2階の廊下です。右側はガラス戸がついた棚になっていて、現在はレトロな品々が展示してありますが、昔はお土産品が置かれていたそうです。つまり道の右側にお店が並んでいるという趣向です。
廊下は屋外の路ですから、天井は空。ということで青い色に塗られています。
この他にも細く見たらきりがないアイディアや遊び心が満載。温泉や食事だけでなく、ぜひ建物も楽しんでいただきたいと思います。
基本情報
渋温泉 金具屋
住所:長野県下高井郡山ノ内町平穏2202
公式サイト ・http://www.kanaguya.com/index.html
温泉:自家源泉4本、共同源泉1本
含硫黄ーナトリウム・ カルシウムー塩化物・硫酸塩温泉など
・温泉成分分析書 | 【公式】歴史の宿金具屋
完全源泉掛け流し(加水・加温・循環・消毒なし)
設備:シャワートイレあり、無料Wifiなし
料金:源泉木造9室!建築にこだわるプラン
2名1室、1人26,400円
前回金具屋に泊まった時、にゃん子がテレマークスキーで膝をいためて整形外科を探し回った話
ここで昔話をひとつご披露。
前回ぽん太とにゃん子が金具屋に泊まったは約20年前、結婚記念日の企画でした。
まだ若くて元気だったぽん太とにゃん子、宿泊前に志賀高原で歩くテレマークスキーを楽しむことにしました。今は閉鎖されてしまいましたが、むかし熊の湯スキー場の向かい側に前山スキー場というのがあって、リフトで上まで登って四十八池まで行って帰ってくるというプランでした。
ところが行ってびっくり。前山スキー場の今シーズンの営業はすでに終了しており、当然リフトは動いていません。仕方なしに閉鎖されたコースを歩いて登ることにしたのですが、若かったので大丈夫。
ちょっとした計算違いはありましたが、天気は快晴。抜けるような青空と真っ白な雪のコントラストが見事でした。ぽん太とにゃん子以外に誰もおらず、この風景を独り占めという贅沢。四十八池で昼食をとり、大満足で来た道を戻りました。
前山スキー場の上部
最後は圧雪されていない前山スキー場を華麗に滑って終わる予定でしたが、最後のところでにゃん子が転倒。膝を痛めてほとんど体重をかけられない状態に。
これは整形外科を受診しなければと思ったのですが、当時はスマホがない時代。車で走り回って探しましたが、志賀高原に整形外科はなさそう。渋温泉まで下ってもダメで、さらに湯田中で客待ちのタクシー運転手さんならわかるだろうと思いついて聞いてみましたが、中野市まで行くしかないとのお答え。
といっても中野市でどうやって整形外科を探したらいいの? まるでロールプレイングゲームみたいです。通りかかった調剤薬局で教えてもらって行ってみましたが、あいにく休診日。
医者はどこだ? 『ねじ式』か? 考えた末に公衆電話ボックスを探し、中に備え付けてある電話帳で調べて何ヶ所かに電話し、ようやく当日診療している整形外科を見つけました。
そこはS整形外科といって、診療所ではあるものの高齢者を入院させる療養病棟を持ってました。先生はちょうど往診に出かけており、しばし帰りを待ちました。待合室の壁には、患者さんからのお礼の手紙がぎっしりと貼ってあり、それを読んで時間をつぶしました。
ようやく先生が往診から戻り、にゃん子の診療を開始。ぽん太は廊下で待ってました。
雪に埋もれた四十八池の東屋
ところが先生が、にゃん子の保険証が医者の保険組合だったことに気づいたのか、「旦那はお医者さん?」、「はい、そうですが」、「何科?」、「精神科です」、「ちょっと呼んで」。看護師さんに呼ばれたぽん太は、「忙しところすいませ〜ん」と診察室に入りました。けっこう高齢の先生でした。
「スキーで転んだの?」、「はい、テレマークで歩くスキーをやっていて傷めました」、「どこ行ってきたの?」、「前山スキー場から四十八池まで往復」、「前山スキー場ってもうリフト止まってたでしょ」、「ゲレンデを歩いて上まで登って」。「ふ〜ん」。
先生、患者さんがおおぜい診察を待ってますが……。
レントゲンの結果骨は大丈夫だそうで、靭帯を痛めるが、切れてはないだろ、紹介状を書くから東京に帰ったら近くの整形外科で診てもらって、とのこと。先生は患部の固定にかかりました。
ここでにゃん子が、「あの〜、温泉には入れますか?」。先生が、何?という感じでジロリと睨みます。「実は結婚記念日で、金具屋に泊まる予定なんですけど……」。
先生は手を止めてため息をつき、「仕方ないか」と弾性包帯に持ち替えて膝に巻き始めました。「長湯して温めすぎないようにね」。
さらににゃん子が、「あの〜、お酒は飲んでいいですか?」と畳み掛けます。先生はまたしてもジロリ。「飲みすぎないようにね」と一言。
雪に覆われた四十八池の向こうに志賀山
診察が終わって、駐車場からバックで車を出そうとしていると、白衣を着た先生が「お〜い」と手を振りながら走り出てきます。忘れ物でもしたのかかしら。
「これあげるから持ってきな」。なんと八海山の純米吟醸の一升瓶でした。先生、診察料より高いですけど。
先生も毎日の忙しい診療の中、春に舞い込んだ珍客が実はちょっと嬉しかったのかな、とぽん太は思いました。
帰宅してから先生にお礼の手紙を書きました。きっと待合室の壁に貼られていることでしょう。(おしまい)
サンクゼールワイナリー:レストランやショップも楽しめます
帰りにサンクゼールワイナリーに立ち寄りました。広々とした敷地にある、南欧風の建物が素敵です。
場所は飯綱町で、渋温泉からだと西に下って行って、上信越道を通り過ぎて反対側ですす。
季節は秋、青空の下、ツタの葉の紅葉が見事でした。
あちこちで見かける和風のちょっとおしゃれな食材の店『久世福商店』の経営者、久世良三さんが、このワイナリーの創業者。フランス語風のワイナリー名St.Cousairの「クゼール」は、久世さんの苗字から来てるそうです。
素敵なレストランやショップもあり、アルコールがだめでも楽しめます。じっさい高校生の団体がバスで来ていて、ぽん太はちょっと驚きました。
敷地内にある丘の斜面に作られたワイン畑。手入れが大変そうです。
丘の上にはチャペルがあり、ウェディングも行えます。