ぽん太のよりみち精神科

たんたんたぬきの精神科医ぽん太のブログです。ココログの「ぽん太のみちくさ精神科」から引っ越してまいりました。以後お見知り置きをお願いいたします。

歌舞伎「霊験亀山鉾」仁左衛門が演じ納め・2023年2月歌舞伎座

 片岡仁左衛門の一世一代『霊験亀山鉾』を観て参りました。

 歌舞伎で「一世一代」というのは、今後はもうその役を演じないということ。仁左衛門はこれまで『義経千本桜』の「渡海屋・大物浦」、『女殺油地獄』、『絵本合法衢』を演じ納めてきましたが、これでまたひとつ観れない演目が増えることになりました。
 こんかいの演技を見ても、まだまだできそうな気がしますが、そう思われるうちに止めるのが役者の美学なのかもしれません。とはいえ、とっても残念です。

 『霊験亀山鉾』は、江戸時代に実際にあった亀山の仇討ちを題材にした作品のひとつです。とはいえぽん太も「亀山の仇討ち」をよく知らないので、これを機会に調べてみました(亀山の仇討ち - Wikipedia)。
 基本的には、1701年(元禄14年)(赤穂浪士の討ち入りの前年)に石井半蔵・石井源蔵の兄弟が、父の宇右衛門と兄の三之丞の仇である赤堀源五右衛門を、伊勢国亀山の城下で28年越しに討ち取ったん事件です。曽我兄弟の仇討ち(鎌倉時代の1193年に曽我祐成・曽我時致の兄弟が工藤祐経を富士野で討った事件。「鎌倉殿の13人」にも出てきましたね)の元禄版ということで、「元禄曽我」と呼ばれたそうです。
 細かいところに関してはいろいろな説があるようで、この討ち入りは文楽・歌舞伎でさまざまに脚色されて上演されておりますから、それらが混ざり込んでいる可能性もあるでしょう。

 さて、『霊験亀山鉾』に話を戻すと、この演目の見どころは仇討ちではなく、仇討ちが次々と返り討ちに会うところ。しかもそのやり方が卑怯千番で、敵討の直前に相手に毒薬を飲ませるとか、待ち伏せしてこっそり落とし穴を掘っておくとか、武士の風上にも置けないやり方です。

 そんな敵役・藤田水右衛門を演じるのが仁左衛門。卑劣で極悪非道でありながら、ハンサムでカッコいいという、歌舞伎でいう「色悪」の役柄ですね。なんで人間はこういう人物に惹きつけられるのか、精神科医のぽん太にもよくわかりません。

 仁左衛門の藤田水右衛門は素晴らしく、これまでに返り討ちにした人数を数えてニンマリするところなど見ていてゾクゾクしますし、突き刺した刀を抜く仕草に肉の抵抗と息絶えた人間の重さが感じられてキモスゴイです。また単にタスキをかける何気ない仕草でも、ゆっくりと回すところとシュッと締めるところのメリハリに魅了されます。

 仁左衛門のもう一役は隠亡の八郎兵衛。隠亡とは死体を焼いたり墓守をするの仕事で、当時は賎民扱いされてました。女郎屋では男伊達を装って、芸者おつまを身請けをしようとしますが、門を出て花道で本性の凄みを利かす演技が迫力ありました。

 演目としても、狼の着ぐるみが出てきて棺桶を取り違えるこっけいな場面や、本水の雨でずぶ濡れになりながらの殺しのシーン、棺桶から水右衛門が出てくるなど、飽きさせませんでした。

 ラストは、明るい照明に象徴されるように正義が隅々まで行き渡った世界において、水右衛門が反対に計略によって誘い出され、石井源次郎によって見事に仇討ちされました。

 芝翫の石井源之丞はうまく優男を演じてましたが、もともとは豪快なタイプの役者さんなので、ちょっと違和感がありました。鴈治郎がやれば良かった気がします。

 貞林尼にの東蔵は、コロナで見ないうちに歳とった感じでしたが、それでやはり演技はうまい。幼くて病気の源次郎が、思いのほか武家の子供の口調でしっかりと話すのを聞いて、最初ちょっとびっくりするけど、だんだんと「良くできました、可愛や、可愛や」になっていく表情の動きなど、味がありました。

 芝雀、孝太郎、吉弥も素晴らしい。千之助美しい。種太郎、歌昇の息子がいつの間にかこんなに大きくなっていたとは、ぽん太はすっかりコロナ浦島状態でした。

基本情報

公式サイト:二月大歌舞伎|歌舞伎座|歌舞伎美人

2023年2月歌舞伎座
第三部

  四世鶴屋南北
  片岡仁左衛門 監修
  奈河彰輔 補綴
  今井豊茂 補綴   

通し狂言 霊験亀山鉾(れいげんかめやまほこ)
    亀山の仇討
  片岡仁左衛門一世一代にて相勤め申し候
  序幕 甲州石和宿棒鼻の場より
  大詰  勢州亀山祭敵討の場まで

藤田水右衛門/隠亡の八郎兵衛:仁左衛門 
芸者おつま:芝雀 
石井源之丞/石井下部袖介:芝翫
源之丞女房お松:孝太郎
石井兵介:坂東亀蔵
若党轟金六:歌昇
大岸主税:千之助
石井源次郎:種太郎
石井家乳母おなみ:歌女之丞
縮商人才兵衛:松之助
丹波屋おりき:吉弥
藤田卜庵:錦吾
仏作介:市蔵
大岸頼母/掛塚官兵衛:鴈治郎
貞林尼:東蔵